魔王と魔法使いと失われた記憶
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576: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/11/25(水) 23:20:17.69 ID:dbHTZ14LO
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統治府の中は、まるで豪奢な宮殿だった。宮殿なんて行ったこともないのだけど。
特権階級御用達の娼館や賭場を兼ねているというのも納得だ。ボクは2階の奥の部屋に通された。

「失礼しますに……ます」

思わず語尾が変わりそうになったのを、必死で直した。部屋の奥のベッドには、30前後の男性が座っている。

「おお……これは可憐な」

てっきり脂ぎった中年が出てくるかと思っていただけに、ちょっと拍子抜けした。身なりには清潔感のある、顔立ちの整った男だ。

「本日の伽を務めさせていただきます、シェイラと言います。よろしくお願いしますに……ます」

「ははは、緊張しているのかな。さあ、こっちへ」

男はボクを呼び寄せると、隣に座るよう促した。……いきなり押し倒されるようなら、然るべき対応を取らせてもらう。

「は、はあ」

「新人と聞いているからね。そこまで無茶はしないよ。それにしても、本当に可憐だ……。今までの男の娘の中でも、ちょっと図抜けている」

「お、お褒めに預かり光栄です。……確か、ユリウス様、ですか」

「ああ。今日はしっかり癒してくれたまえ。そうだな、まずは按摩でもしてもらおうか」

「え?」

「気苦労が絶えなくてね。15分ほどでいい。伽はその後で構わないさ」

変わった男だ。余程疲れているのだろうか。

「ではうつぶせになっていただければ。……どうかされたのですか?」

「ははは、まあね……厳しい上役を持つと、こうでもしないとやってられないのさ」

上役……ミカエル・アヴァロンか。

「厳しい、のですか」

肩を揉みながら訊く。

「ああ。……うん、実に具合がいい。本職が按摩だったりするのかな?」

「お戯れを」

御主人にいつも按摩を頼まれているせいだろう。こういう時に役立つとは思わなかったが。

ユリウスという男は、ふうと息を付いた。

「……猊下は全てにおいて正しい。しかし、正し過ぎる。それに外れた者は、決して許されないのさ」

「罰、ですか?」

「ならいいのだけどね。消えるんだよ。いずこへと」

……「グロンド」を使っているんだ。ボクの背筋に冷たいものが流れた。粛清か。

「消える、と」

「ああ。理由は不明、どうやっているかも分からない。でも、とにかく『消える』」

「今こうしているのも、危ないのでは?」

「大丈夫。猊下は3階にいらっしゃる。客人と話されているらしい。時間になるまで、猊下は決してその予定を曲げない。つかの間の自由、ということだよ」

客人?メディアは4階のはずだから、エストラーダ侯が3階にいるのか。しかし、彼を匿う理由はよく分からない。何を考えているのだろう?

「客人、ですか」

「ああ。どうにも猊下の御心はよく分からない。……腰の辺りも頼むよ」

ボクは腰に手を移した。

「御心?」

「ああ。モリブスの邪教徒を保護したのもそうだが、あの緑髪の少女だよ。破滅を招くなら、即殺せばいいものを」


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