575: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/11/25(水) 23:18:50.81 ID:dbHTZ14LO
「……これが、ボク、にゃ?」
下がスースーする。姿見の向こうには、薄手のワンピースに身を包んだ少女がいた。
「へえ」とデボラさんが感嘆したように言う。
「よく似合ってるじゃないか。プルミエールの助けがあるとはいえ」
「……複雑な気分にゃ」
「蜻蛉亭」の従業員の腕は、すこぶる良いらしい。何でも女主人のカサンドラさんが、化粧術に精通しているからなのだそうだ。
彼女の実年齢を聞いて少々驚いたけど、あの肉体とこの化粧があれば客は確かに取れるだろう。
「うふふ、誇っていいわよ?それだけ素材がいいということだもの。
正直、即うちで雇いたいくらい。そのつもりはなあい?」
「遠慮するにゃ」
「あらら、つれないわね。じゃあデボラ、この子を一晩預けてくれないかしら?とても愉しい夜になると思うのだけど。もちろん、その子にとっても」
「それも断るね。そこまで暇でもないんだ」
「む、残念ねえ。その子もまだ若いんだから、悦楽の真髄を味わうには早い方が良いと思うのだけど」
正直に言えば少し心が動かされたけど、それはおくびにも出さないでおいた。
実年齢を知らなかったら「お願いするにゃ」とか口走っていただろうけど、さすがにちょっと離れすぎている。彼女が老いにくいエルフでないのは、結構残念なことだ。
「それにしても、何で女装しなきゃいけないのにゃ」
「向こうの要求よ。そういうのが好きな殿方は、決して少なくないの。しかもこれほどの見た目麗しい子は本当に希少なのよ。つくづく残念。
彼をたまに貸してくれたら、ワイルダ組にさらなる便宜を図れるのだけど」
「まあ、それは今度別の形で報いてやるさ。時間は、10時からだったかい。聖職者も随分と朝からお盛んだねえ。
しかも原理主義のイーリス派だろう?アヴァロン大司教にバレたら、控えめに言って即破門だろうに」
カサンドラさんが肩をすくめた。
「側近だから彼の予定は把握しているのだそうよ?それで無理矢理時間を作って、女装させた御稚児趣味に走るのだから業が深いわ」
「禁欲主義のなれの果てということかい。まあ、お蔭でつけ込む隙ができるわけだけどねえ」
ボクは小さく頷いた。
「確認にゃ。まず統治府に潜り込んだら、客と接触。準備と称して部屋を抜け出し、爆弾を設置。
そして猫に化けて逃げる……これでいいにゃ?」
「ああ。前に話していたのと違うのは、あんたが『限界突破』を使ってメディアごと逃げること。
メディアが死んでは意味がないからね。あんたのあの力なら、多分いけるはずさ。
オーバーバックが来たら、あたしとエリック、プルミエールが引き受ける。そこに片が付き次第、アヴァロンに対応する……」
「そのためにはオーバーバックの射撃をどうするかにゃ。初撃を避け、奴と話ができる状況を作れれば……」
「勝機はあるね」
カサンドラさんが呆れたように首を横に振った。
「にしても、アヴァロン大司教に喧嘩を売るなんて、あなたも無謀ねえ。まあ、テルモンの支配下にはいるのはこちらとしても御免だけど。
税金、酷いらしいからねえ。あの暗愚なゲオルグ帝からナイトハルト伯に世が変われば……」
「言っても詮無きことさ。それに、あたしらの目的は世直しじゃない。
詳しくは言えないけど、正直ただの私情だよ。まあ、ベーレン侯の依頼もあるけどね」
「まあ、何だっていいわ。商売しやすくなる方を、私は選ぶ。だから協力した」
「そして失敗は許されない、ね。まあ承知しているさ」
デボラさんが不意に、ボクを軽く抱き寄せた。
「……頼んだよ」
「分かったにゃ」
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