魔王と魔法使いと失われた記憶
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549: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/11/18(水) 23:00:23.05 ID:lSBzGI7SO
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「お嬢様、『蜻蛉亭』に御用で?」

館の呼び鈴を鳴らすと、執事風の初老の男が出てきた。

「主人のカサンドラはいるかい。デボラ・ワイルダが来たと言えば分かるはずさ」

「……お待ちを」

5分ほど待つと、ボクらは中に通された。化粧水の濃い空気が鼻を付く。外観はああだけど、中は豪奢でいかにも娼館という感じだ。

「御主人、客人に御座います」

「通して」

執務室兼私室と思わしき部屋に入ると、初老の婦人が髪を櫛でとかしていた。顔には皺も少し見えるけど、十分現役で通りそうなほど美しい。
おっぱいも大きそうだし、あるいはここで得意客を取っているのかもしれないな。ボクは熟女趣味じゃないからちょっとお断りだけど。微かに甘い匂いもする。

婦人が顔を上げると、訝しげな表情になった。

「……本当にデボラ?」

「ちょっと狙われててねえ。耳は魔法で隠してるんだ」

「……その声と顔立ち、言われてみればデボラ・ワイルダね。変装は弟の……誰だっけ」

「ウィテカーさ。今日はいないけど、まあそんなとこさね。半年ぶりだけど、健勝そうで何よりだよ」

「お蔭様でね。貴女に命を救われたからこそ、私の今はある。ジャレッド、お茶を」

「畏まりました」

男が去っていく。

「しかし、急な訪問ね。貴女に護衛の仕事を頼む予定は今のところないわよ?
それとも何かしら、その可愛らしい男の子を、私にくれるとでも?」

思わずブルッと身震いした。カサンドラという女(ひと)はかなり綺麗だけど、さすがにボクの守備範囲じゃない。

「ははは、そういうわけではないさ。ちょっと、貸しを返して貰いたくてね」

「貸しを返す?」

「ああ、大したことじゃないさ。統治府で何が起きてるか、分かるかい?ここからも娼婦を送ってるんだろう?」

男がお茶を運んできた。それを一口啜ると、ふうとカサンドラさんが溜め息をつく。

「私には何もできないわ。統治府相手の商売は開店休業状態。ここ数日の物騒な動きと関係があるのかしら」

「多分大有りさ。どうなんだい」

「ユングヴィの偉いのが来てるって話。ユングヴィは私たちを目の敵にしてるから」

デボラさんがボクを見た。やはりあれはアヴァロン大司教だったか。

「誰かの出入りは?例えば、緑色の髪の女とか」

「……ちょっと分からないわ。あと数日で統治府での商売は通常通りになるって聞いたけど、情報はそれくらい。私にできることはないわ、申し訳ないけど」

「そうかい」

デボラさんが辺りを軽く見渡した。……微かに音が聞こえる。喘ぎ声だろうか。

「……ところで、テルモンの連中が随分来てるみたいだねぇ。結構な人数じゃないかい?」

「……何が言いたいのかしら」

カサンドラさんが眉を潜めた。デボラさんは肩を竦める。

「いや、これだけ来ると連中相手の商売は儲かってるんだろ?ここも満室みたいじゃないか。
それとあんた、すぐにここにあたしらを入れなかったね。客、ついさっきまで取ってたんじゃないかい?多分、テルモンの高官……違うかい」

「……目ざといわね」

彼女が苦笑する。そうか、彼女は商売上不利になる行動ができないわけか。だから、協力を拒んでいる……


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