542: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/11/16(月) 20:26:55.64 ID:6z/X/rfuO
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「失礼します」
先ほどとは打って変わって、荒れた様子の部屋だ。部屋の隅で、年老いた男……エストラーダ侯の目が光った。まるで幽鬼のように。
「……できたのですか」
「いえ、まだ。あと数日と」
「あと数日!?それまでに、ファリスが死んだら……!!?」
私は彼に近寄り、手を頭の上に乗せた。気付かれぬよう、鎮静化の魔法をかける。
「大丈夫です。私たちが必ず見つけ出しますから」
「……本当でしょうな」
疑念が強まっている。言葉巧みにやり過ごしてもう2週間近くが経つが、さすがにもう限界か。
もし既にファリスが(恐らく)死んでいることを告げれば、彼の刃は私に向くだろう。
ネリドと一緒に、彼を消してもよかった。しかし、彼の娘に対する執着は利用できる。
そう考え、彼だけは生かしておいたのだった。……ある薬を投与しながら。
良心の呵責はない。所詮、モリブスのユングヴィ教徒は邪教徒だ。邪教徒は人ではない。家畜以下だ。
ただ、家畜と違って利用価値も場合によってはある。エストラーダ侯が、まさにそれだった。
もし、エリック・べナビデスとプルミエール・レミューがロックモールに来たならば……エストラーダ侯は、彼らを討つための刺客足り得る。
そう思って彼を残したが、動きは一向になかった。
シェリルがしくじったのは聞いている。そして、アリス・ローエングリンが来たらしいことも。
彼女は危険だ。ただでさえ危険なのに、ジャック・オルランドゥの元に戻ったのは非常に危うい。下手にモリブスには手を出せなくなった。
だとしたら、べナビデスとレミューが来るのを迎え撃つ方が得策だ。私がロックモールに戻ったのは、メディアの件だけでなく彼らへの対応も理由と言える。
それだけに、エストラーダ侯を抑えるのが限界に近付いているのは正直よろしくない。
「処分」を視野に入れるべき時が来てしまったのかもしれない。
……あと1日が限度か。そう思いながら、私は首を縦に振った。
「私が約束を違えたことなどございましたか?」
「……信頼しておりますぞ、大司教殿」
部屋を出ようとしたその時、外から禍々しい気配がした。……これは。
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