503: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/11/08(日) 22:02:00.37 ID:MGCdRfMlO
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査証をぶら下げたまま、黒猫の姿のシェイドが俺たちの前に現れたのはつい1時間ほど前のことだ。右前脚は付け根から取れかかっていた。血まみれでほとんど死にかけていたが、気力だけで辿り着いたらしい。
「どうしたっ!!?」
「撃たれた……にゃ。多分……」
「いいからしゃべるなっ!!デボラっ!!」
無言で彼女が「時間遡行」をかける。撃たれてまだ間もなかったからか、脚自体はすぐにくっついた。
「……あいつだ。オーバーバックという男」
「……狙い撃ち、されたにゃ……それと……メディアは、統治府にいる、にゃ」
「何だとっ!!?」
シェイドが小さく頷く。
「多分……彼女にゃ……」
「どういうことだ」
シェイドが目を閉じた。
「シェイド君っ!!!」
「……心配しなくて大丈夫さ、脈はある。出血多量でとりあえず気を失っただけだね。例の薬は?」
「一応、何個か追加してもらいました」
「分かった。あとで飲ませれば死ぬことはないと思う。にしても……」
俺はデボラの方を見た。
「若干不可解だな」
「え??どうして」
「まず、メディアという女だ。どうして統治府にいるのか?カルロス、彼女はそんなに重要人物なのか?」
カルロスが弱々しく首を横に振る。
「知らないんだ。俺は、彼女の身の上を聞いたことがない。話したがらなかったんだ。俺は、それでもいいと……」
「だろうな。ただ、ユングヴィ絡みということぐらいは分かる。つまり、アヴァロン大司教が一枚噛んでいる可能性があるな」
「馬鹿な!!そんな大物が、なぜ彼女に」
「俺には分からん。その点については、シェイドが起きてから話を聞くとするか。もう一つ解せないのは、シェイドを生かしておいた意味だ。オーバーバックというのが何者か知らないが、多分殺そうと思えば殺せたはずだ。敢えて生かしておいたようにも見える。その意味が分からない」
プルミエールが少し考えている。
「……多分、警告じゃないかしら。これ以上この件に首を突っ込むな、という」
「猫の姿のシェイドを警戒していた、ということになるぞ」
「でもそれぐらいしかない気がする。何にしても……」
「想像以上の大事だな。……それでも、女を取り戻したいのか」
カルロスは「無論だ」と即答した。
「俺にとっても、彼女にとっても……互いが一番大切な人だ。救わないと」
青いな、という言葉を俺はすんでのところで飲み込んだ。それは事実かもしれないが、それが何かを変えることもある。
それに、俺だって「真実を知りたい」という単純な動機だけでここまで来ている。感情の力は、馬鹿にできないのだ。
「でも……どうするの?」
「一度、カルロスの別荘に行く。問題は、オーバーバックという男だが……」
「それは任せて。幻影魔法で気配はある程度遮断できるから」
「……!!できるのか」
「ジャックさんの下で修練したのは、あなただけじゃないのよ?私も色々覚えたんだから」
ニッ、とプルミエールが笑う。前はこんなに自信を持ってなかったと思うが、少し変わったな。
「分かった。信用するぞ」
「うん。それで、一つ提案があるんだけど……」
プルミエールが俺にある考えを打ち明けた。……もし可能なら、面白いかもしれない。
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