329: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/10/01(木) 20:39:34.40 ID:mKWppRREO
「おはようございまぁす」
欠伸をしながらエリザベートがやってきた。後ろからついてきているランパードさんは、どこか疲れた様子だ。
「あれはお前か」
「ん?あれって?」
「猫だ。俺たちの部屋を覗いていた」
「……ああ、あれ」
ランパードさんが前に出た。
「すまねえな、『草』からの連絡があってな」
「『草』?」
「そうだ。アヴァロン大司教だが、明け方前にモリブスを発ったらしい」
ニヤリ、とジャックさんが笑う。
「やはりな」
「昨晩話していた、アリス・ローエングリン教授の策ってヤツか?」
「そうだ。俺も詳しくは知らない。だが、あいつの行き先がテルモンだということを考えると、薄々見当は付く。
大方、テルモンの反皇帝勢力に動きがあったんだろう。イーリスとテルモンは一応同盟国だ。ユングヴィの原理主義派も多い。
アヴァロンは、表向きは教団員の保護でテルモンに向かったと考えるべきだろう」
「まさか……ローエングリン教授が煽動でもしてんのか?」
「直接手を下すような女じゃない。ただ、『何かおかしなこと』を引き起こした可能性は高いな。例えば、反皇帝勢力の首魁、カール・シュトロートマンの演説が街中で流れたり、とか」
「んなことができるのか」
ジャックさんが私を見た。
「お前なら分かるだろう?」
「……まさか」
「そうだ。『追憶』は大地の精霊が『過去に見たもの』を水晶などに映し出す。とすれば、『今見ているもの』を何かに映し出すこともできると思わないか?」
……可能だ。というか、それなら私にもできなくはない。ただ、やる意味がないと思っていた。
もし、遠くの場所に映し出せることができたら……それは確かに有益だろう。アリス教授なら、この程度は簡単にやってのける。
「理解できたようだな」
「でも、それって……教授が反皇帝勢力と手を組んでる、ってことですよね?どうしてそんなことを」
「それは本人から聞いた方がいいだろうな。一つ言えるのは、あいつにはあいつなりの事情があるってことだ」
ジャックさんがミルクを飲んだ。事情?一体何だと言うのだろう。
デボラさんが訝しげに口を開く。
「とにかく、しばらくアヴァロンは戻ってこない。そう考えるべきってことだね?
ただ、行ったっきり戻ってこないってこともあり得るんじゃないのかい」
「プルミエールの『追憶』が仕上がって、ネリドとエストラーダの消失にアヴァロンが関わっていると分かれば、それだけでもかなり効く。
もちろんアヴァロンを捕縛できれば最上だが。エリックとプルミエールの存在は邪魔極まりないはずだから、何かしら手は打ってくるはずだ」
「それって、アヴァロン以外の誰かが来る可能性があるってことかい」
「後で来るジョイスは俺の協力者だ。ラミレス家は敵としても、連中では派手に軍隊を動かすことはできない。無頼衆を使おうにも、俺相手に喧嘩を売るほどの度胸もないだろう。
だからこそ、アヴァロンはクドラクを使おうとしたわけだ。できることなら大事にならずに、こいつらを殺したかったからな。
それができるのは、アヴァロン本人以外だとかなり限られる。アヴァロンのグロンドなら、存在そのものを消し去れるからな」
デボラさんが「なるほどねぇ」と干し肉を焼いたやつを口に運んだ。ジャックさんが私たちを見る。
「時間的な猶予はこれでできた。後はお前ら次第だ」
761Res/689.43 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20