魔王と魔法使いと失われた記憶
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306: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/09/24(木) 21:32:27.03 ID:HSZ2OTe3O
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「何だか妙なことになりましたねぇ……。あのアリス教授が偽者で、ジャックさんの元奥さんというのにも腰を抜かしましたけど」

パタパタとはたきで塵を払いながらエリザベートが言う。額には汗が滲んでいる。

「皆ここに滞在するのは仕方ないさ。あたしらを匿う意図もあるんだろう?」

デボラの言う通りだ。俺たちがジャックを頼る可能性は、少し考えれば分かりそうなものだ。それでも、アヴァロンという男がここを襲わないだろうと確信できるのには理由がある。
それは単純に、ジャックが当代一の大魔導師だからだ。彼の知名度は高くはないが、彼以上に魔術の腕が立つ男は父上以外に見たことがない。
アヴァロンがジャックのことを知らないとは思えない。とすれば、こちらに追手は迂闊には来ないはずだ。

俺は魔道書を持ち上げた。やたらと重い。横の男は背の高さを活かしてひょいひょいと片付けている。

「……さっきから思っていたが、何故お前もいる?」

「そりゃあ姫のお守りだろ。てか俺も命は惜しいんでね、一人でモリブス市街に残る選択はねえよ」

ランパードが本を片手に言う。ジャックは酷く渋い顔をしていたが、安全面から結局こいつも泊めることになってしまった。「俺が人質に取られたらまずいだろう?」とはこいつの弁だ。

「にしても、どれも面白そうな本ですね。読み耽ってしまいそう」

「そりゃあ天下のオルランドゥ家の正統後継者だからね。蔵書の質は魔術学院の大図書館に勝るとも劣らないさ。
あたしやウィテカーも、よくここに入り浸ってたものだよ」

俺は魔道書が微かなマナを帯びていることに気付いた。なるほど、ここのマナの濃さはそういうことか。
昔極端に濃い濃度のマナの下で鍛練をさせられ閉口したが、これはそれの亜種ということのようだ。掃除をしろと命じたのには、相応の理由があるということだ。


片付けは半日がかりで終わった。幸い外に異変はない。今日のところは逃げ切ったと言えそうだった。

「ふえぇ、疲れたぁ……お腹空いたぁ……って誰が作るの?」

「そう言えば……ジャックさん、足悪いし誰が身の回りのお世話してるんだろう?」

俺は辺りを見渡した。そういえば「あいつ」にまだ会ってないな。

「ここから街まではかなりありますものねぇ。食糧の調達とかも必要だし。どうなんですそこのとこ」

「あたしに話を振るのかい?あたしらが居候してた時は、普通にアリスさんが食事作ってたけどねぇ。まだジャック先生も五体満足だったし」

デボラが困惑したように言う。

「……召し使いがいる。ただ、今日は見てない」

「いるのかい?こんなに散らかってて?」

「散らかってるのが好きな奴だ。というか散らかしたのは多分そいつだ。どこに行っているのだか……」

ニャァ、と黒猫がドアから入ってきた。

「あら、猫ちゃん。……この子、どこかで見たことがありますねぇ……」

「そうね。アリス教授のとこにいた猫も黒猫……」


「それはそうだにゃ。それがボクだからにゃ」




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