魔王と魔法使いと失われた記憶
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305: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/09/24(木) 21:28:33.95 ID:HSZ2OTe3O
俺と小娘が叫ぶ。デボラだけは「ああ」とさほど驚いた様子はない。

「確かにいたねえ。思い出したよ、あの女(ひと)かい」

「お前ら姉弟が居候していた時はまだ一緒に住んでいたからな。別れたのはそれからしばらくしてからだな」

「まあ、魔法馬鹿同士だったからねえ。別れたって話を聞いた時はさほど驚かなかったけど、付き合いはまだあったんだねぇ」

「嫌い合って別れたわけではないからな。よく連絡は取っていたし、エリックの話もしている。もちろん、こいつが何を望んでいるのかも」

流石の俺も驚いた。人間側に協力者がいたとは。

「六連星のことも把握してたようだな。陽動っていうからには、何かしらでテルモン方面に連中の注目を集めようという考えだろう」

「陽動って……危険じゃないんですか!!?」

「無茶はするが危険は冒さない、それがアリス・ローエングリンという女だ。まあ、やるからには成算があるってことだろ」

「解せないねえ」

デボラが口を挟んだ。

「何で教授様がこんな厄介ごとに首を突っ込むんだい?あんたの役に立ちたいからといっても、こいつはちと度が過ぎるよ」

ジャックは煙草を灰皿に押し付けた。

「俺もアリスも、20年前の『サンタヴィラの惨劇』には疑念を持っている。
ケインとの付き合い上、理由無しにあんなことをするはずがないと確信しているからな。旧友の汚名をそそぐというのが理由の一つだ。
そして、六連星が出張ってきて確信したが、これは間違いなく国家絡みでの陰謀だ。そうじゃなければ、プルミエールは狙われない」

ジャックはコフコフ、と軽い空咳をした。少し、話しているのが辛そうにも見える。

「……事の背景がろくでもないことは、察しが付いてる。このまま、『歴史の真実』が明らかにされないままのほうが、世界は平和なんだろうが……ゴフッ」

「ジャックさん!!大丈夫ですかっ??」

「ん……まあ、まだ大丈夫だ。とにかく、アリスが時間を作ってくれている間に、お前らを鍛えないといかん」

「時間……どれぐらいだ」

俺の問いに、ジャックが黙った。

「分からん。ただ、最低1週間、恐らくは2週間までは粘れるだろう。どの程度グロンドの転移に融通が利くかにもよるが、あれを頻繁に使えないならアヴァロンは陸路でテルモンに向かうはずだ。
ここからテルモンは往復に2週間はかかる。その間に、『追憶』の使い勝手を向上させないといかんな。無論、奴を討てるだけの力も身に付けたいところだ」

「……たかが2週間でできるのか?」

「それはお前がよく知っているだろう?」

ニィというジャックの笑みに、俺は初めてここに来た時のことを思い出して身震いした。体術にはある程度自信があったが、魔法はからきしだった俺に根本から魔法の基礎を叩き込んだのが彼だ。
その修行は思い出したくもない。あの苛烈なのを、もう一度やるのか?

クックック、とジャックが面白そうに笑う。

「冗談だよ。課題は明白だ。お前は『加速』の持続時間、プルミエールは『追憶』の効果範囲の拡大。エリザベートにもちと稽古を付けてやるかな。
課題が明白だから、そこまで時間はかからんよ。まあ苦労はしてもらうが」

「あたしにも……頼めるかい」

「……お前もか」

デボラが頷く。

「誰が父さんと母さんの仇かは分からない。ファリスの母親なのかもしれない。
だけど、もしもの時のためだ。もう一度、あたしを鍛えてはくれないかい?」

「いいだろう。じゃあまず手始めに、俺の家の掃除をしろ」

「は?」

「俺の他に4人も寝泊まりするんだ。幸い、この家は相応に広い。散らかってる本を整理すりゃ、それなりに何とかなるだろ」



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