魔王と魔法使いと失われた記憶
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26: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/07(金) 22:04:07.32 ID:S0Anv1g5O
「『魔王』?……ズマのハンプトン大魔候、ではなくて?」

エリザベートが声を潜める。

「違いますよ。モリブスに、自称魔王が出たそうなんです」

「自称?意味ないじゃない、それ」

「ええ。でも、ご存じの通りエルフの情報網ってそこそこ正確なんですよ。で、そいつって魔力の質が異常に高かったらしいんです」

「……悪さは?」

「今のところ。ただ、オルランドゥ方面に向かったとかなんとか」

アリス教授が黙った。

「……こっちに?」

「ええ。だから注意した方がいいって、さっき連絡が。見付けたら即警察にと」

「悪いことをしてないのに、警察を呼ぶの?」

やれやれ、とエリザベートが首を振った。

「だからこそよ。魔王の正体は分からない。けど、高い魔力を持った魔族なんて、それだけで危険でしょ?
何かしでかす前に捕まえておかないとダメじゃん。あなたの叔父さんたちだって、魔族に殺されたわけでしょ?」

「……まあ、そうだけど」

「何が切っ掛けで魔族の『獣性』が解き放たれるかなんて、分からないでしょ?だからこれは仕方ないのよ。まして自称魔王なんて、ロクな奴じゃないだろうし」

確かにそうだろう。概して魔族には、悪人が多いとされている。
だから各国で人権は制限されている。多民族国家で比較的寛容な、ロワールやモリブスですら、だ。

「……あまり遅くまでやらない方がいいわね、2人とも。
特にプルミエールは魔法を使わせちゃったし、もう上がっていいわ」

「え、いいんですか?」

「学会、来週でしょ?論文も大事だけど、実技が上手く行かなかったら意味はないわ。
今日は早めに帰って、体力を回復させときなさい」

「あっ、ありがとうございます!」

教授はヒラヒラと手を振った。


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