魔王と魔法使いと失われた記憶
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27: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/07(金) 22:05:01.40 ID:S0Anv1g5O
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私の家は、オルランドゥ魔術学院から歩いて10分ぐらいの所にある。
家からはオルランドゥ大湖が近い。マナに溢れたあの湖畔を歩くと、それだけで力が湧いてくる気がする。

ゆっくりと歩いていると、ぐう、とお腹が鳴るのを感じた。
夕食時には少し早いけど……ま、いっか。最近お酒も飲んでなかったし、少しぐらいはいいだろう。

「へい、らっしゃい。ってプルミエールじゃん」

「おひさです、カトリさん」

湖の側に立つレストラン……というかカフェに入ると、カウンターの向こうからピョコンと長い耳が立つのが見えた。

「うん、久し振りだねえ。学会が近いって聞いたから、しばらく来ないもんだとばかり思ってたよ」

「今日は早く帰れたんです。だから、学会前の気晴らしってことで」

「いいねえ。今日はいいのが揚がってるんだ、ちゃちゃっと捌いてやんよ」

白い歯を見せて、ウサギの亜人……カトリさんが笑った。旦那さんのウカクさんは、厨房みたいだ。

「いいですね!何ですか?」

「オルディック海老だよ。今、旦那が海老の煮込みスープを作ってるけど、あたしは活け造りだね。これはあたしからのおごりってことでいいかい?」

「あっ、わ、悪いですよ」

「いいからいいから。学会が上手く行ってあんたが仕官したら、その時に出世払いさ」

奥からウカクさんが現れ、奥の席にいる客に料理を出しに行った。
後ろ姿しか見えないけど……随分小さいな。亜人かホビットかしら。テーブルには皿が結構積まれている。

「ありがとうございますっ。で、お酒ですけど」

にぃ、とカトリさんが笑った。

「ちゃんとあるよぉ。アングヴィラ産の葡萄酒の白、『コルナック』」

「わぁすごい!でも、高いんでしょ?」

「まあね。でも、これもおごっちゃう」

「え?」

カトリさんがチラリと奥の客を見て、私に耳打ちした。

「それがさ、あの客が『前払い』って言ってドカンと払ったのよね。受け取れないって言ったんだけど、聞かなくって」

「え、いくらぐらい?」

「それが100万ギラ!2週間分の売上だよ?まあ、それに見合うぐらい良く食べるんだけどさ……」

100万ギラ??魔術学院を首席で卒業した仕官者の初任給2ヶ月分並みじゃない……

「何者なんですか?」

カトリさんは肩をすくめた。

「さあ。というか、子供なんだよねぇ。本人は28だとか言ってたけど。
気味が悪いけど、お金は確かに持ってたからそれ以上は聞かないことにしといた。何より、魔族っぽいのよねぇ」

ゾクリ、と身体に震えが走った。まさか……

「『魔王』?」

「なーに突拍子もないこと言ってんのさ。相手は子供よ?確かに怪しいも怪しいけど、魔王はないわよ」

奥の席の男……いや少年は、ウカクさんと何やら話している。こっちの会話には気付いてないようで、ほっとした。

「そう……ならいいんですけど」

「とりあえず、これ付け出しね。ちょっと待ってて、葡萄酒の栓抜くから」

チーズをトリス名産の調味料「ソミ」に漬けたものを出すと、カトリさんがコルク抜きを探し始めた。
私は奥の席の少年をもう一度見る。……そんなに魔力は感じない。
魔王は異常に魔力が高いってエリザベートが言ってたから、やっぱり気のせいかな。

トクトクと葡萄酒がグラスに注がれる。口にすると、キリッとした刺激が喉を通り抜けた。その奥には、芳醇な香りと甘味。

「美味しいっ!!」

「でしょ。どんどん飲んでね」

しばらくすると、お酒と料理の美味しさで、奥の席の少年のことはすっかり忘れてしまったのだった。


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