125: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/21(金) 20:38:52.57 ID:GUtbYzIjO
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バザールに入ると、街中に香る香辛料の匂いがさらに濃くなった。
その空気があまりに刺激的過ぎて、軽く目眩がするほどだ。
モリブスのバザールは、北ガリア最大の市場だ。南ガリアからの不可思議な食べ物、テルモンやズマで産出される鉱物や貴金属、そして遥か東のアトランティア大陸で作られた工芸品……その全てが集まっている。
ここで買えないものはない、らしい。武具だけじゃなく、怪しげな薬だって「裏バザール」なら手に入るということだ。
魔術に使う薬を求めて3年前に来た時は、教授と一緒だった。だから全然心細くなかったけど、今回は違う。
魔王が何を考えているのか、さっぱり分からない。というか……あんなのを着たら恥ずかしくて消えてしまいそうだ。
「ねえ、やめてよ……服なんていいから」
「馬鹿が。狙われている身というのが分かっているのか?今も誰かが……あるいはクドラクがお前を探しているのかもしれんのだぞ」
「でもっ!!あんな服なんて着たら……」
私が耐えられない。私の顔は地味だから、周りに合わせれば目立たなくなるかもしれないけど……でも嫌なものは嫌だ。
しかし、それを魔王に伝えて聞き入れるだろうか?力ずくで着させられるだけだろう。
唇を噛みながら、私は彼についていく。……やっぱり、私の気持ちは分かってもらえないのかな。
「……着いたぞ」
魔王があるテントの前で足を止めた。そこにあったのは。
「……え?」
そこには、見るからに上等なドレスが並んでいた。記事の光沢からして絹だろうか。
どれもゆったりとした感じで、落ち着きの中に上品さを感じさせる意匠だ。
「これって……」
「お前の服を買いに来たのだが?他国から来た良家の令嬢とその護衛という設定なら、モリブスであれば差程目立たんだろう。
それともまさか、モリブスの娘どものような破廉恥な服を着させるとでも思ったか?」
唖然として返す言葉がない。その通りだから。
魔王が呆れたように、大きく息を吐いた。
「本当に馬鹿だな、小娘……お前のその胸で『ビキ』なんて着たら、オークでなくても発情するぞ。
『私はここにいますから犯して下さい』と宣言してるようなものだ。もう少し物を考えろ」
「お、犯す……?」
「……お前、姿見を見たことは?」
「あ、あるわよ、そのぐらい」
「なら男に抱かれたことは?」
「……あるわけないじゃない」
彼は小さく「だろうな」と呟いた。
「自分の容姿をもう少し考えろ。お前は……その、男にとっては……目の毒だ」
「……どういうこと?」
私が不細工、ということだろうか。地味だとは思ってるけど……
魔王の顔は真っ赤になっている。
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