花丸「私の天使」
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44:名無しNIPPER[saga]
2020/07/12(日) 21:39:29.50 ID:qe4+sBJv0


(あいつ、さすがに心配かけすぎでしょうが。)

5日間も花丸が山に来ない日々が続いた。

白い花の冠は未だに幹の奥に隠したままだ。

ヨハネは居ても立っても居られなくなり、夜半にこっそりと花丸の家を覗きに行くことにした。

(大丈夫。花丸ならきっと大丈夫。)

あれから、譫言のように毎日自分に言い聞かせている台詞だ。

出発しようとしたヨハネは、ふと思い立ったように踵を返す。

幹の奥から、あの冠を二つ取り出す。

驚くことに、その花は未だに瑞々しく、たった今作ったかのように綺麗な姿を保っている。

前に来たときは、上空から眺めているだけだった家の前にストンと降り立つ。

ひっそりと森の入り口に佇む家は、小ぢんまりとしていた。

(さて、花丸はいったいどこに……)

とりあえず窓から覗き込んでみると、中には小さくみすぼらしいベッドが1つ置かれていた。
そこを覗き込んだヨハネは思わずあっと声を出しそうになる。

(花丸!)

ベッドに横たわっていた花丸は息も絶え絶えに、薄く開いた目でこちらを覗き込んでいる。

顔も体も火照っているのが、窓越しでも判った。

「ヨハネ……ちゃん……?」

できるだけゆっくりと窓を開けると、花丸の弱弱しい声が聞こえてきた。

「いいわよ、そのままで。静かに寝てなさい。」

傍の椅子には、──花丸のおばあちゃんだろうか──老婆が座り込み、こっくりこっくりと規則正しく船を漕いでいる。

顔には明らかな疲労の色が見られ、老婆が花丸を甲斐甲斐しく看病していたことが窺える。

「ヨハネちゃん、ごめんね。なんだか、家に帰ってから体が重くて、ずっと寝てなきゃいけないの。お医者さんも来たんだけど、なんかよくわからなかったって。」

喋るだけで辛そうだ。

ヨハネは慌てて花丸の背中を摩る。

「しゃべらなくていいわよ。大丈夫、大丈夫。」

枕元には、ルビィと書かれたお見舞いの手紙の他に、ヨハネと一緒に作った2つの輪っかが置かれている。

どちらの輪も、花は枯れて葛は萎れて、どうにかその形を保っていた。

そして、山を統べるヨハネには目の前の花丸の命が、枕元の花に負けず劣らず、涸れようとしているのが視えてしまった。



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