28:名無しNIPPER[saga]
2020/07/12(日) 21:25:40.15 ID:qe4+sBJv0
扉を開けて、オレンジ色の灯りの中に花丸が消えていくのを確認すると、ヨハネはほっと胸を撫で下ろした。
今は夏だ。
森の中からは時折、おどろおどろしい獣の声が聞こえてくる。
稜線の輪郭が朧になるほど暗くなった宵闇の空を音もなく飛びながら、ヨハネは自分一人の静けさに包まれていた。
──私のことが見える少女。
なぜ、彼女には私の姿が見えるのだろう。
会ったときから頭のどこかにずっとこびりついている疑問。けれども、ヨハネはそんなことを花丸には聞かなかった。
「──そうよね。」
ヨハネは自分の気持ちがわかったように清々しい顔つきを浮かべる。
私のことが見えるとか、どうして私が見えるとか、そんなことは二の次でいい。
ただ嬉しかった。
自分はこの世の生物を超越した存在であり、この山の守護者であることも理解していた。
たまに響く子供たちの笑い声は自分とは違う世界に住んでいる生き物だと自覚していた。
なのに、なのに──
あの子は唯一、その距離感に踏み込んできたのだ。
それがとても心地よかった。
初めて触れる花丸。
その温もりや優しさがとても嬉しかった。
守りたくなった。
(次はいつ会えるかしら。)
この素晴らしい日々がずっと続いて欲しい。
そう願いながら、ヨハネはいつものように眠りについた。
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