黒埼ちとせ「進化論」
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31:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:54:49.88 ID:W5lmC8VA0
「…………」

 かつての私にも、思い描いたものが、きっと無いわけでは無かったと思う。
 でも、諦めるのは楽だった。

 人並みの事ができない自分には、どうせ夢は夢で終わるのだと。
 そう言って、頭の中で描いては消し、諳んじては伏せ――。

 いや、描く前から消していた。
 恥ずかしい思いをするのはイヤだから、頭の中で読み上げる前に、私はそれを視界の外に追いやった。

 それが、私の普通だったのだ。


「ねぇ藍子ちゃん……もう一つだけ、聞いてもいいかな?」

 この子は、私が思っていた以上に強い子だ。
 身体はともかく、何よりも精神が。確実に。


「アイドルって、楽しい?
 それと……どうして藍子ちゃんは、アイドルになったの?」


 これだけ優しい性格は、たぶんアイドルの世界には向いていない。
 なのに、これからもアイドルとして生きていく覚悟が、この子にはあるのだ。

 私と違って。

「質問、二つだったね。ごめんね?」



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