1:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/26(金) 00:12:25.83 ID:pCrOcsWZO
「式、お前は黒桐のことを愛してるか?」
トウコに幹也のことを愛しているかと尋ねられて、オレは即答することが出来なかった。
黒桐幹也。
地味な癖に真っ黒で妙に目立つ男。
オレの数少ない知人で、変なやつだ。
どのくらい変かと言えば、こんな風に。
「僕には式が必要だ」
きっぱりと何ら迷いなくオレのことが必要だと幹也は口にする。その意味がわからない。
たしかに幹也はおかしな奴だけど、逸脱はしていないから世の中に馴染むことが出来る。
その点、オレは完全に向こう側の人間で、この先どれだけ長く生きようとも馴染めない。
「トウコ、オレは社会不適合者なんだ」
「おかしなことを。生まれながら社会に適合し得る人間がもしも存在するならば、それは恐怖だ。得体の知れない化け物だろうさ」
それはトウコなりの励ましなのだろう。
蒼崎橙子。稀代の人形師として業界内では有名人らしいが、それは世を忍ぶ仮の姿。
正体は胡散臭い魔術師でまさに魔女である。
生身の人間てあるオレよりも魂の根本からよっぽど逸脱しているトウコという存在は、オレにとって救いであり、向こう側との境界線の狭間を明確に示してくれる道標でもある。
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2:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/26(金) 00:16:48.71 ID:pCrOcsWZO
「だいたい、社会に適合した人間ほどつまらない存在はないぞ。そしてそれこそが彼らにとっての誇りで、逸脱していない自分に酔っている。一度も交通違反すらしたことがない人生だけが取り柄など、虚しいだけだろう」
果たして本当にそうだろうか。
別に羨ましいとは思わないが、立派だ。
それを誇ることは確かに虚しいだろうけど。
3:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/26(金) 00:18:49.47 ID:pCrOcsWZO
「要するに、幹也はオレを乗りこなしたいんだろ? さながら暴れ馬を調教するように」
「乗りこなすって、君ね……」
オレを嗜める幹也を、トウコが茶化す。
4:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/26(金) 00:20:28.56 ID:pCrOcsWZO
「どうだ、トウコ。オレは常識人だろ?」
「まったく。おかげで私は退屈極まりない」
トウコはさも退屈そうに煙草をふかす。
ポワポワと煙で円を作る様はまるで絵に描いたような退屈ぷりで思わず笑ってしまった。
5:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/26(金) 00:23:27.93 ID:pCrOcsWZO
「橙子さんは意外と臆病なんですね」
「黒桐。大人はみんな臆病者なんだ。君たち若者よりも失う悲しみを知っているからね。だから歳を重ねるごとにつまらない存在へと成り果てる。無論、私は例外だがね」
別に誇るでもなくトウコは自らを例外だと言う。それが、この女が逸脱している証拠だ。
6:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/26(金) 00:25:23.26 ID:pCrOcsWZO
「なんなら式の人形を作ってやろうか?」
「要りませんよ、そんな悪趣味な」
む。なんだ、その言い草は。悪趣味だと?
7:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/26(金) 00:27:35.38 ID:pCrOcsWZO
「お前は本当に難儀な性格をしてるね、式」
「ほっといてくれ」
「命を奪わずにはいられず、かと言って命なき物も愛せない。それはとても辛いことだ」
知ったようなことを。とはいえ的確だった。
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