十時愛梨「それが、愛でしょう」
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2:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 17:38:38.75 ID:n4MKx+790
1.「マジックナンバー」

 小さい頃、魔女に出会ったことがある。
 そんな話をしても、大体が冗談だと思われたり、それとなく可哀想な子を見るような目で見られたり、ひどいときはいい病院を紹介されたりするのだろう。
 実際、友達に話をしたときはジョークかどうかを直球で尋ねられたりもした。

 だけど、それがもしトップアイドルに会ったことがある、ということであれば、多分ちょっとした自慢話になって、教室の中でちょっとちやほやされたり、ちょっと妬まれたり、そんなことがあるのかもしれない。
 魔女。トップアイドル。まるで接点のない言葉たち。
 すぅ、と大きく息を吸い込みながら、私は何度も鞄に履歴書が入っていることを確認して、駅から程近い場所にそびえ立つ事務所の正門に手を伸ばそうとしていた。
 
「はぁ……」
 
 ああ、緊張する。
 緊張するどころの話じゃない。吐き出した息から魂が漏れ出ちゃってるんじゃないかって思うぐらいだ。
 それだけじゃない。心臓はばくばくと、人に聞かれてないか心配になるぐらいうるさく跳ね回っていて、ここだけ、何か大きくてとてつもないものに時間の流れが押しつぶされているみたいに、一秒が引き延ばされて。

 魔女。トップアイドル。人が聞けば、きっとその二つの言葉に接点はないのだろうけれど、私にとってその二つは同じものだった。
 引き延ばされていく時間の中で、記憶の引き出しから不意にそんな思い出がこぼれ落ちて、どこまでも延びていく一秒の中を、鮮やかに駆け抜けていく。

 私が今、芸能事務所の門を叩こうとしていること。そしてそこからアイドルを目指していること。
 その二つと、切っても切り離すことの出来ない、小さい頃の思い出話。そして、私の旅の始まりのことだった。


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