30:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/11(木) 20:08:05.87 ID:fM9nM/xA0
「君は……俺にこう訊いたな。望みは何だと」
忘れるはずもない出来事。かけられた言霊。それはきっと、俺の望みと、ちとせの未来予測を重ね合わせるための魔法だったんじゃないかと思う。俺の望みは、貴女の望む全てと同じですと、そう答えさせるための誘導。
馬鹿げているとは思う。だけど、そうとしか思えない。ならば。
「答えるよ、ちとせ。俺の望みは……君に、君として、他の誰でもない黒埼ちとせとして明日を迎えてほしいんだ」
ぱたり、と、何かが落ちる音が聞こえた。何が。熱が。どこから?
どこから。俺の、内側から。滲んでいる。心の奥底でもつれていたものが解けて、願いに乗って、いつのまにか握りしめていた小さな掌と、それを包み込む骨張った手の甲にぱたり、ぱたりと降り積もっていく。
「俺は答えたよ、だから訊かせてくれ、ちとせ。君の願いは何だ? 君の望みは何だ? 誰かに託したものじゃない、諦めているものじゃない」
答えはない。それでも言葉は走り続ける。胸の奥底で雁字搦めになっていた願いは解けて溶けた。そうして不透明の海を泳いで、透明な彼女に向けて辿り着こうと、言葉になって藻掻き続けている。
「……答えられないなら、推測するよ。君は……君は、誰よりも生きたいと、そう願っているんじゃないか! 明日を迎えたいと、そう思っていたんじゃないか……!」
答えてくれ。強く、だけど壊してしまわないように小さな掌を包みながら、俺はそう叫んでいた。
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