29:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/11(木) 20:07:13.41 ID:fM9nM/xA0
「この世界には、きっと奇跡が溢れている」
十時愛梨が初めて灰の冠をその頭上に戴いたように、天海春香がそのきっかけになる時代を作ったように、そこから更に遡れば日高舞が、歴史の教科書に名前を残すような偉人たちが、歴史を転換させるような偉業を、奇跡と呼んで差し支えのないようなことを起こしてきた。
俺はその存在を信じて疑わない。きっと奇跡は誰にだって訪れる。本の受け売りをまともに信じるのなら、人間には三回奇跡が起きるはずなんだ。それでも。
「それでも、誰かの人生を誰かが代わりに生きることなんて、できないんだ。できないんだよ、ちとせ」
もしも今からアイドルを志す人間が天海春香に徹底的な取材をして、彼女と同じトレーニングや食生活、交友関係の全てに至るまでをなぞったとしても、そいつは天海春香になることは出来ない。十時愛梨にも、白雪千夜にも、俺にもなれない。
昔、百時間以上夢中になっていたゲームがあった。人は誰かになれると、そう謳った物語だった。
それは、半分本当かもしれないけど、半分は嘘だ。人は確かに、誰かにとっての特別な誰かになることはできるかもしれない。例えば、縁もゆかりもなかったはずの人間同士が友達になったり、或いは険悪な出会いから始まったアイドルとプロデューサーが、今ではそれなりに信頼し合って仕事をしていたり。
だけど、人はどう頑張ったって自分以上の何かにはなれないのだ。世界の数割に匹敵する財産を築いたって、過去の人々が描いた未来予測を超える機械を発明したって、何百年も解くことが出来なかった数学の問題を証明してみせたって、そこにあるのは偉業を成し遂げた自分であって、他の誰かでも超越的な存在でもない。
それなのに、他人が自分の人生を、生きるはずだった未来を代わりに生きることなんてできるだろうか。いいや、できるはずがないんだ。ちとせ。
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