14:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/11(木) 19:51:54.75 ID:fM9nM/xA0
幸いなことに、企画そのものは潰れなかった。
上層部からの通達と事後処理を終わらせて、すっかり日の暮れた中庭でベンチに体重を預けながら、大きく溜息を吐き出す。
まだ夜になりきれていない、夕焼けのオレンジが混ざった藍色のグラデーションはこうやって汚れていくんだろうか。煙草を吸うのは随分前にやめてしまったが、排気ガスとか、俺じゃない誰かが吐き出した副流煙とか、苦労か、絶望とか。
そういうものを吸い込んで、街は夕方から夜に変わっていく。なんてこともない。ただ、現実逃避のように捻り出した、他愛も益体もない御伽噺だった。
元々、LIVEバトルはこの事務所が定期的に行っている興業で、ノウハウ自体はマニュアル化されているし、何よりも出演者に十時愛梨がいるとなれば、それだけで金になる。
上層部の考えを代弁するなら、そんなところだろう。別に相手が誰であっても構わない。ひとたび初代シンデレラガールがステージに立てば、そこが彼女の王城に、下品な言い方をあえてするのなら、会社にとってのドル箱になる。
そこに憤りを感じるところがないとはいわない。ただ、おかげで調整がやりやすかったのは、多分不幸中の幸いなのだろう。
ぎりぎりまで黒埼ちとせの出演を保留する。もしLIVEバトル当日までに彼女が目覚め、復帰できなければ代役は白雪千夜を指名する。
俺の要望はこの二つだった。
勿論、管理不行き届きというペナルティを負った人間があれこれと偉そうに口を挟めるものではない。だからこそまあ、そこはそれ、蛇の道は蛇というやつで、あれやこれやと手管を尽くした結果なわけだが、正直なところ、その最大の功労者は俺じゃない。
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