周子「だから、あたしが逢いに往く」
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49:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 20:36:06.50 ID:XnGtX3Tv0





 鼻歌が聞こえる。

 頭がふわふわとして思考に靄がかかった中に、裸足で入って来て走り回っているようなそれ。
 能天気な声と旋律で随分とまぁ楽しそうにしているが今は勘弁してほしい。
 耳を塞ごうとしたが全身に上手く力が入らない。

 耳障りなこいつは誰だ?
 そもそもここはどこだ?
 やたらと眩しい気がする
 日の光だろうか
 なんとも硬い寝床だ
 なぜそこで転調する

 ……駄目だ、思考が安定しない
 あたしは何をしている?
 誰かに会いたかった
 何かに阻まれた
 負けて失った
 大事な何かを
 何かを?
 誰かを?
 誰を……
 ……!

「紗枝!」 

 ゴツンという鈍い音とともに顔を抑え悶絶する被験者……いや、周子の姿がそこにあった。
 解剖台の上に裸で仰向けに寝かされていた周子の頭部が起き上がるちょうどその位置に無影灯があったせいで思い切り打ちつけてしまった。
 文字通り出端をくじかれ再び解剖台に仰向けに倒れる。

「〜〜〜〜〜〜!!」

「あ、起きた?おはよ〜!」

 起きた?ではない、起きれなかったではないか。
 もう少し照明の位置をなんとかできなかったのか。
 心の中でそう悪態をつく周子は横からのぞき込むその声の主に目を向ける。
 成程、無茶苦茶な鼻歌もこの迷惑な無影灯もこいつのせいか。

 一ノ瀬志希。
 顔を合わせるのはあの日以来二度目だ。
 よりにもよって社の敷地に陣を書こうとした迷惑千万の悪ガキ。
 妙な少女だとは思っていたがなぜここにいるのか?
 寝起きで顔面を強打したせいか、怒りに任せて起き上がる前に少しだけ冷静になる機会ができた。
 本当なら紗枝のこととその他への怒りで埋め尽くされているところだが、それだけでは通らぬ状況があることを思い知らされた。
 まずは現状を把握するべく片手で邪魔な無影灯を払いのけつつ痛みが引くまでに周囲を見渡した。

 四方八方は金属製と思しき壁……扉がない
 幻術……ではなさそうだ、実体がある。なのにこの違和感はなんだ?


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