周子「だから、あたしが逢いに往く」
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32:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 19:54:38.03 ID:XnGtX3Tv0

「ねぇシューコはん……」

「ん、どーしたん紗枝ちゃん?」

「シューコはんて、ここに住んどるん?」

「まぁ家みたいなもんやね」

「ほんなら、これからもずっとここにおる?」

「そうやねー、引っ越す予定はないなぁ」

「せやったら……また会える?」

「……どうしたん?」

「うちね、正式に宮仕えが決まってん……」

 紗枝はここに来る少し前にその通知を受け取っていた。
 小早川家の人間としてその例に漏れず紗枝にもまた宮仕えの要請が来たのだ。
 勿論収入も良く安定しており、何よりこの国においては誇り高い職であるという認識だった。
 平民からしてもできるものならその職に就いてみたいと考える者も多い。

「へー、良かったやん!これで安泰……」

 しかし紗枝としては複雑な心境であった。凛々しくあろうとするもやはりまだ幼い。その心境が僅かに漏れ出てしまう。

「何か不安なん?」

「住み込みやから、たぶんしばらく会えへんと思う」

「そっか……」

 まだ幼い紗枝には少なからず酷ではあったが宮中はそのような制度であった。
 才能ありと見ればすぐさま囲い込みいち早くその職務と生活に馴染ませていく。
 紗枝の祖母が言及していた依田家の娘や先日シューコを訪ねた志希もそのような経緯を辿っていた。
 裏を返せば、宮中が紗枝に何らかの才能を見出したことに他ならなかった。

「でもね、うちね、やっと自分なりに大切な誰かを助けてあげられる方法見つかったんよ」

 紗枝はそう訴えかける。
 その相手はシューコか、或いは……

「詳しくは言えへんけどね、でもうちにしかできへんみたいやから……せやから行ってくる!」

「……そっか!」

 いつしか旅立ちの日はやってくるもの。
 かつての神々とは違うのだと、紗枝が真剣に考えた末の信じた道ならば晴れやかに送り出してやるべきだと、シューコは自分に言い聞かせる。

 紗枝はそんなシューコを見てほっと胸を撫で下ろす。
 この話を聞いてどんな反応をするだろうかと、応援してくれるだろうかと。
 それだけが不安であったが、シューコの様子を見て杞憂であったと思った。

「紗枝ちゃんの親御さんはなんて?」

「すごいことやって褒めてくれた!」

「ちゃんとお話できたんやね、仲直りってやつやな!」

「うん!……別にけんかしとったわけやあらへんよ?」

「あはは……あたしの早とちりか、ごめんごめん」

 二人してくすくすと笑う。
 今なら、この時ならと、紗枝はもう一つ勇気を出す。
 ずっと疑問に思っていたこと。
 もしかしてと思っていたこと。
 どちらだったにせよこの想いは変わらないが
 それでも訊いてみたかった。


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