周子「だから、あたしが逢いに往く」
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31:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 19:53:09.97 ID:XnGtX3Tv0





 それから一月程経っただろうか。
 都の気温には困ったもので、四方を山に囲まれているせいか夏は暑く冬は寒い。
 そんな今は八月下旬、未だ残暑厳しい中でも足繫く神社に通う紗枝とそれを迎えるシューコの姿があった。

 いつものように二人して境内に腰掛けて
 焼き焦がされる程の日差しを浴びる夏の景色を見つめて
 シューコが紗枝の額に優しく手ぬぐいを押しあてる。

 紗枝がこうして通う頻度は減ることはなくむしろ増していたが、その代わりに短い時間で帰ることも増えた。
 忙しくなる中でも紗枝なりに時間を見つけて少しづつでもシューコの顔が見たいと思うが故だった。

 そんな紗枝の顔つきが以前とは少し変わり始めたことにシューコは気づいていた。
 まだまだ幼いと思っていたが、最後に紗枝の背を押してやったあの日からもう一月以上経ったのだ。
 成程、男子でなくとも刮目せねばなるまい。
 具体的に見た目が変わったわけではない。
 シューコに言わせるとこれは所謂“見据えるべきものが見つかった者”の顔だった。
 漠然とした不安や不透明な明日への悩みは多少薄れたであろう、そんな顔つきだった。

 シューコは紗枝がかつて抱えていたであろう悩みについて家族がらみ、それも母親が関わっているであろうことは察しがついていた。
 幸い紗枝の母は未だ健在で腹を割って語り合う機会もあることは紗枝の話からも読み取れた。
 きっと勇気を出せたのだろう。
 そんな紗枝の成長が微笑ましくもあり、羨ましくもある。
 シューコには得られないであろうことだから。

 かつて神々がまだ人間達と共存していた時代があった。
 大厄災を経て両者とも甚大な被害が出たが奇跡的に生き残った。
 その後人間達は神々から独り立ち、いや“決別”することを選んだ。
 神々はその別れに酷く悲しみその別れ際にあるものを送ったのだった。

 それこそがシューコである。

 餞別という言葉がある。
 親しいものが遠くへ旅立つ際、その者が乗る馬の進む先に向かって安全を祈願したのだそうだ。
 何事もなく向かう先の地へ辿り着けるように、辿り着いたそこで幸せであるようにと。
 当時の神々から人間達へのそれもこんな餞別であったならどれほど良かっただろうか。
 だがそうはならなかった。その非情な現実が今尚シューコを縛り続けていた。



 シューコは人ではない。
 妖怪と呼べるかどうかも生い立ちを考えると怪しいものだ。
 精霊のように多少は親しまれ敬われる望みも生い立ちを考えると不可能だと言えた。
 今は生物の延長のように振舞っているがそれすらも本来は疑わしいのだ。
 この神社とて元々シューコを祀ったものではない。
 なんとなく見つけて偶然そこにいた妖を食い殺して丁度いいから代わりに居座っているだけだ。


 シューコはそんな自分が好きになれずにいた。



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