周子「だから、あたしが逢いに往く」
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26:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 19:44:46.23 ID:XnGtX3Tv0


「そんで最近どうなん?術、習い始めて少し経つけど。最初の方はえらい疲れた顔しとったやん?」

「まだ難しい……一応できるようにはなったけど」

「お、何かできるようなったん?」

「んーとね、水動かすんはなんとか」

「ほーすごいやん!ちょうどええしやってみてや」

 紗枝は桶の水に手で触れると目を瞑り小声でぶつぶつと唱える。
 お札は持ってきていないので詠唱する方式だ。唱え終わると眉間に皺を寄せて力を込める。
 ゆっくりと少しずつ、桶の水が渦を巻き始めた。

「お〜!動いてる動いてる!紗枝ちゃんやるね〜!」

「……っぷはぁ!」

 息を止めながら力を振り絞っていたようで、紗枝のそれが途切れると渦は次第に勢いを失くしていく。
 家族以外にこうして術をお披露目するのは初めてであり、今の紗枝の実力からすると成功と呼べるだろう。
 だが残念なことにそもそもの勢いがあまりに弱かった。渦という表現もお世辞に近い。
 桶の中で水が回っているのは確かだが中心に渦の目ができる日はまだまだ先になりそうだった。
 そしてそのことは紗枝自身が一番分かっていた。

「い、一応なんとかこれくらいは……」

「ちゃんとできとったよー、お疲れ様」

「……けど、こんなんやあかん。疲れるだけで大した事できん」

 紗枝がやってみせたのは術の中でも基本的なものだ。
 触れたものを自身の筋力に関係なく術の力で動かすというもの。
 誰しも最初に習うのはこれだ。次へ進む早さは人によるが。

 術の中には様々あり、このような単純な物ばかりに留まらない。
 術を書いた紙をある程度自動で動かしたり、触れることなく相手に幻を見せたり
 高度になってくると別空間を創りだして相手を閉じ込めてしまう術なんていうのもある。
 とにかくその先は長く奥深い、そのことを紗枝は知っていた。


「まぁまぁそう落ち込まんとさ、これからやん」

「そうやとええけど……」

 こんな自分でも励ましてくれる、褒めてくれる。
 そのことが紗枝には嬉しかった。
 だが、だからこそ辛かった。
 もう少しきちんとできるところを見せられたら良かったのだが、なかなか思うように習得は進まなかった。
 
 そんな紗枝を見てシューコもしばし考える。
 誰しも向き不向きはあるし上手くできないことなんていくらでもある。長い目で考えればいいのだ。
 ただ、本当の意味でいつまでも世界が待ってくれるわけではない。
 自分と違って人には寿命があるし、人間の社会とやらは年齢に応じてそれなりの実力を求められるであろうことも察していた。

「シューコはんは……」

「ん?」

「シューコはんは、始めてどれくらいできちんと術使えるようになったん?」

「あー……そうやね……」

 難しい質問が飛んできた。
 この状況で“生まれながらにしてできた”などと言えるはずがない。
 後々覚えたものもあるにはあるが、人間にとって不自然でない期間など考えたこともなかったが……

「うーん、ひとつ……いや一年……くらい?」

「そっかー……シューコはんも頑張ってきたんやね」

「そ、そりゃ……ね……」


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