周子「だから、あたしが逢いに往く」
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24:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 19:37:25.94 ID:XnGtX3Tv0

 大厄災
 太古の昔、神々と人間が決別する直前の出来事。
 何らかの大きな災いがあったことは平民も含めほぼ全ての人間が知っている。
 紗枝がこの日に教本でさらりと教わっていたのもそれだ。この国の民ならば皆等しくそれを習う。
 当時の神々と人間達でなんとか乗り切ったものの途方もない被害が出たのだ。
 
 しかしそれは治まっただけで終わってはいない。原因となる存在は未だ健在であり眠っているだけなのだ。
 それは数百年の周期で引き起こされてはその都度人間達は必死に奇跡的に乗り越えてきた。
 但しこれはほんの一部の者しか知らないことだった。
 まさか志希のような年齢の者が知っていようとはシューコは思ってもみなかった。
 
 勿論シューコもこの予兆を察知していた。
 それはこの世の誰よりも早く、そしていち早くそれに備えて動いた。
 当然この世を守るためではない、自分自身が生き残るためだ。
 そのためには力を蓄えなければならず、必然として大量の食糧が必要になる。
 この国に妖の類が残っていないのはそのためだった。
 それ程の危機なのだ。

「まさか……“あいつ”に使う気か!?」

「そうそう、完成したらキミも含めてみんなに得だと思うんだけどなー」

「んなもん効くわけあらへんやろ!あたしどころか当時の神でも歯が立たへんかったのにあんたらに何ができるんや?」

「言ったでしょ?倒すわけじゃないって」

「だったらどうするんや?眠り薬でも盛るんか?」

「ノンノン、それだといつか起きちゃうでしょ?もっと根本的な治療しないと」

「治療?」

「うん、あれを……人間にする」

 シューコは困惑していた。この小娘はいったい何を言っているのかと。
 そんな薬も術も聞いたことが無い。
 そんなことできるものか。

 しかしそれでも志希は本気で言っていた。
 今はまだ完成せずとも、材料の検討もつかずとも、決して不可能ではないと信じていた。

「はぁ……まあええわ、好きにすればええんちゃう?」

「本当?やったー!じゃあさっそく実験するからどこか一部ちょうだい、腕とか!」

「渡すわけないやろ、邪魔はせんてだけであたしは知らん」

「ケチ〜!衛兵が仕事場抜け出してきたあたしを探しに来る前にこっから帰るからいいでしょー?しばらくもうここ来ないからちょうだいー!」

「あぁもう、とっとと帰り!」

 そう言うとシューコは髪を一本引き抜き志希に渡す。
 
「にゃはは〜ありがとう!お礼に今度なにか困ったら助けてあげるー!」

「余計なお世話や、はよ行かんかい!」

「はーい、他言はしないから安心してね〜」

 志希がトコトコと駆けていく。
 やっと騒がしいのが居なくなると思いシューコは一息つこうとした。

「あ」

 したのだが……

「あいつ……陣描きっぱなしやん」

 一息つくのはもう少し後になりそうだった。





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