周子「だから、あたしが逢いに往く」
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23:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 19:35:42.49 ID:XnGtX3Tv0





「……で、その薬師様が何の用なん?あたしそっちはそんな詳しくはあらへんけど」

「さっきも言ったけど妖怪……てか人間じゃないもの探してんだよねー、他のはもういないの?」

「おらへんよ」

 たかが人間の小娘一人など大した危機にはなりえないはずだが、妖怪を探しているらしい志希への警戒は緩めることはない。
 宮中の人間であれば国内に妖怪が残っていると知れば討伐に向かうだろうことは予想できるからだ。
 シューコは今は特に人間と争うつもりなどない。
 こうして悠々自適に過ごしながら気まぐれにこっそり人間にちょっかいをかけて遊んでいればそれで十分だ。

 しかし人間から仕掛けてくるのであれば、こちらとしても降りかかる火の粉は払わねばならぬ。
 ただ、この場所はそれなりに気に入っているので大勢の人間をここで相手にはしたくない、火の粉の払い方とて考えなければならない。
 そう、最善策は今この場で志希を始末してしまうことだった。

 それでもシューコは、志希がシューコを人ならざる存在だと見抜いたことには感心していた。
 まだ幼いにも関わらず鋭い勘と目を持っている……いや、幼いが故か、どちらにせよこんな人間は久しぶりだ。
 始末するだけなら一瞬で済むのでもう少しこの志希と戯れてみよう、そう考えた。

「そんなもん探してどうする気なん?お友達にでもなりに来た?」

「そだねー、それ面白いかも!なろうなろう!」

「あんたそれ本気て言うとるん?」

「だって面白そうだし!妖怪なんてそうそういないし」

 なんとも気の抜けた能天気な話し方をする。
 しかしこれでいて志希は大真面目なのだがシューコには伝わるわけもなく。

「で、元々の目的は何や?」

「あたしの薬が人間以外にも効くか試したくってさー、んで捕まえちゃおうって思って」

「だったらその辺で瓜坊でも拾ってきたらええやん」

「その辺はもう散々試して飽きちゃった……それにあたしが調べたい相手は人間以外って言うより“この世ならざるもの”なんだよね」

「何でわざわざそんなもん……あんたらが普段関わる機会なんざあらへんやろ」

 かつてこの国にはシューコ以外にも妖の類をちらほら見かけることがあった。
 ものによって時代によっては親しまれてさえいた。
 しかし今のこの国の人間がそういった存在に関わることなど無いはずなのだ。何故なら

「あたしが片っ端から全部喰いつくしたからなぁ」

「えー、全部食べたの?ちょっとは残しといてよケチー!」

「誰がケチや、てかそっちの事情なんざ知らんわ」

「ぶ〜!」

 おやつを取り上げられた子供のように頬を膨らませ抗議している。
 年相応ではあるはずなのだが志希がやると何か裏があるようにすら思える。
 シューコはそんな志希の内面を未だ掴みきれずにいた。

「またそんな顔してから……でもあたしで試そうとは言わへんのやな」

「一つしかない検体なんだから最後の臨床試験までとっておきたいじゃん?」

「検体ってあんた……」

「にゃはは〜これは失敬」

 全くと言っていい程に物怖じしない小娘だなとシューコは思う。
 正体を知らぬとはいえ人として接してくれる紗枝とは違う
 正体を知った上でなお検体の一つとしてしか認識していない、それがこの一ノ瀬志希だった。

 ちなみに志希はシューコの正体を知らなかったとしてもこの態度は変わらない。
 彼女からすれば今生きているこの世の人間も含め全ては実験対象なのだ。シューコとしても薄々そんな予感がしていた。

「でもむしろその方が疑問やな。あたししかおらへんのやから、あたしで試し続ければ仕留めた後はなんも考えんでええやんか」

「別に妖怪を倒したくて作ってる薬じゃないよ?キミを倒したいわけでもないし」

「ますます分からんなぁ、何が目的なん?」

「キミも察知してるんでしょ?……近いうちに“大厄災”が来るって」

「!」


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