132:名無しNIPPER[saga]
2020/05/06(水) 23:18:59.82 ID:EfLG+Erp0
頭を掻く彼に笑い返し、加蓮が足を振ってサンダルを放り投げます。
閉めていたジッパーを下ろし、パーカーもそこらに放り捨てて。
寄せる波が、薄い青に彩られた彼女のつま先にキスをしました。
足の裏にくすぐったさを感じながら、加蓮は歩みを進めます。
彼の見ている前で一度深呼吸をし、勢いをつけてざぶんと潜りました。
「――ぷは、っ」
すぐに水面から顔を出します。
細い髪の間を冷たい水が流れ落ちてゆき、唇が少ししょっぱくなりました。
視界は蒼と碧だけで満たされていて、
二つは遥か遠く、水平線の彼方で互いに混じり合っていました。
憧れるだけの場所だと、あの頃はずっとそう思っていたのです。
水着で、海なんて。
どこか遠い世界の、ただの御伽噺だと。
ですが加蓮は今、海水の塩辛さを。
流れ落ちる雫の冷たさを。
容赦無く焦がそうとする南天の太陽を、その肌で感じていました。
「海だね」
「ああ」
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