響「林檎の様に、プロジェクト・フェアリー」
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5:名無しNIPPER[saga]
2020/04/18(土) 18:27:45.83 ID:wxbkEhUW0
貴音の部屋に入り、とりあえずステージ衣装を見ているとそれを思い出してしまうものだから、着替えた方が良いよという事になり、美希に着替えの手助けを頼んで、自分はとりあえずお茶でも淹れる事にした。
キッチンの勝手よろしく三人分のマグカップを取り出し、急須に緑茶の茶葉云々とした上で、暫く僅かに湯気立つ急須の口を眺めていた訳なのであるが、振り払った筈の貴音の姿がありありと浮かんで来て、どうにも身体というより、お腹というか、震えを抑えるのが苦しい。
人が後ろ向きに躓いた時、人は人間の無力さを思い知らされる。その時の貴音は、少しの間ではあったけども、それはもう忙しくばたばたと腕を倒れるまいと大きく振りに振ってバランスを取ろうと必死に、目やら口やらをまん丸にして踏ん張ろうとするその姿が明確に思い浮かんだ時には既に限界で、自分で脇腹を摘まみながら食い縛る歯の隙間から漏れる息を必死に我慢する他無く、そんな中で淹れ済んだマグカップをお盆で運んだものだからかたかたと揺れてしまって仕方がなかった。
先にテーブルに付き、美希が手伝う中での貴音の着替えをまじまじと見つめていた訳なのだけれども、それはそれは貴音の顔が暗いものだから、自分の脳裏のそれとあまりにギャップがあって、もう正直に表すのだけれども、可笑しくて仕方がなかった。
貴音達と対面するように座ってしまったものだから笑いを堪えるので精一杯、ふーっと両手で顔を覆って隠すのだけれども、身体のひくつきだけは止められそうになく、変に泣いているとも思われたく無いしで、心は大波立つ中身体は手持ち無沙汰なそれを解消するようにお茶を啜るのだけれども、またまた転ぶ瞬間の貴音の顔が浮かんできて、思い切りむせてしまったらもうどうにも止まらないのである。
それでもなんとかむせている我那覇響を演出し続けなくてはならない訳だが、内心大口を開けて腹を抱えている響ちゃんに侵食されるかの様に、むせて苦しい風にお腹を抑えつつ、脇腹をぎゅっとつねった。
そうして胸中苦しんでいるうちに貴音の着替えも終わり、対面二つの席に相も変わらず心配げな美希とそれはもう落ち込みに落ち込んでいる貴音が、いやもはや何故ここまで落ち込むことがあろうかという暗い表情を浮かべながら、座った。

階段から落ちるときの貴音の顔はあんなに表情豊かだったのに。

もうそんな風に考えてしまって、限界だった。


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