【鬼滅の刃】「桜と梅と」【ぎゆしの】
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1:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:00:20.39 ID:TJReGnPWO
「お花見をしましょう」

 始まりは姉さんのこの一言だった。多くの人はこんな仕事をしているのに何を言っているのかと思っていた。現に私もそう思った。けれど、姉さんには姉さんの思惑があったみたいで…

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2:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:01:12.63 ID:TJReGnPWO
「こういうことになったからこそよ、何もかも我慢しなきゃいけないなんておかしいじゃない?」
「けど、そんな暇は…」
「しのぶ、誰かの幸せを守るためには自分がまず幸せにならないといけないのよ?」

 幸せを知らない人間には、誰かの幸せなんて守れないのだから。と続ける姉の顔が余りにも綺麗だったから。私はわかったと言う他になかった。そんな暇があるなら鍛錬をしないといけないとは思っていたけれど、つい流されてしまった。


3:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:02:36.03 ID:TJReGnPWO
「なるほど…お花見か…良い提案をしてくれたねカナエ、ありがとう。会場はここにしよう」

 御屋形様の一言で会場は産屋敷邸に決まった。


4:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:03:27.61 ID:TJReGnPWO
「おいおい、飲んでねえじゃねえか!」
「わっしょい!わっしょい!」
「伊黒さん、これも美味しいわ」
「…後でいただこう」
「…ふん」
以下略 AAS



5:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:04:54.61 ID:TJReGnPWO
「おかわりも用意しているからどんどん飲んで食べてね」

 姉さんがそう言って微笑む。今この場では誰もが楽しそうに桜を見ている。その中心にいる姉さんは身内の贔屓目を抜いても華やかだ。
 周りにいるのは一癖も二癖もある柱の面々なのに、こんなにも和やかな空気が流れるのはひとえに姉さんの魅力だろう。


6:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:05:40.49 ID:TJReGnPWO
「…」
「そんな端に座ってないで、もっとこっちに来たらいいじゃないですか」

 みんながどんちゃん騒ぎをしている中、一人離れた場所でお酒を飲んでいた水柱、冨岡さんに声をかける。普段無愛想な冨岡さんがこんな場所に来るのも珍しい。だからきっと他の人への声のかけ方がわからないのだ。


7:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:06:21.99 ID:TJReGnPWO
「…花が綺麗だ」
「はぁ…」

 恐ろしく会話が下手だ。コミュニケーションを放棄していると思われても仕方ない。こんなんだから風柱や蛇柱に嫌われるのだと言うのに…


8:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:07:12.69 ID:TJReGnPWO
「まぁ、お花見ですからね。どんちゃん騒ぎもいいですけれど、本来はこんな風にゆっくり花を見るのも…ん?」
「どうした?」
「冨岡さん…この花…梅ですよ?」

 冨岡さんが見ていたのは桜ではなく梅だった。確かに似てはいる。けれど、全く別の花だ。天然ドジっ子な冨岡さんらしい間違いだ。


9:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:07:57.12 ID:TJReGnPWO
「ほら、花の先が丸いでしょう?桜は先が割れているんですよ」
「…俺はわかった上で見ていた」
「いや、ごまかさなくてもいいですから…」
「俺は梅の方が好きだ」
「はぁ…」
以下略 AAS



10:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:09:11.69 ID:TJReGnPWO
「そんなんだから嫌われるんですよ?」
「俺は嫌われてはいない」

 こんな軽口を言えるこの時間はとても幸せな時間だ。こんな時間がいつまでも続けばいいのに…そんな私の願いはこの少し後にボロボロと崩れ落ちることになるとは思ってもいなかった。


11:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:10:01.48 ID:TJReGnPWO
「鬼殺隊を辞めなさい…」
「カナエ姉さん!言ってよ!お願い!」

 カナエ姉さんが鬼に殺されたのはその年のことだった。どうして、どうして、どうして…その時の私には、事実を受け入れることができなかった。どうして姉さんが死なないといけないの?誰からも好かれていた姉さんが、みんな大好きだった姉さんが…


12:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:11:21.94 ID:TJReGnPWO
 家族を亡くしたあの日から、私の世界は姉さんを中心に回っていた。たぶんそれはカナヲやアオイもそうだった。蝶屋敷にいる女の子たちもみんなみんな、姉さんのことが大好きだった。そんな姉さんが…どうして殺されないといけないの?


13:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:13:17.46 ID:TJReGnPWO
「人も鬼も仲良くすればいいのに…」

 それからと言うもの、私は姉さんの姿をどこかに残したくて必死だった。
 姉の口癖を真似した。似合ってもいないぶかぶかの羽織を着た。姉が好きだと言ってくれた笑顔を無理やり貼り付けた。全ては姉さんを…誰からも必要とされていた姉さんをこの世につなぎとめるために。


14:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:13:51.71 ID:TJReGnPWO
「てめェ…いい加減にしろよォ!」
「はい?どうされました?」

 だからこんな風に不死川さんに胸ぐらを掴まれたって辞めるつもりはない。



15:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:14:25.44 ID:TJReGnPWO
「こんな時まで笑顔かァ?それはカナエが望んでた笑顔なのかよ?」
「ッ…」

 違う、違う、違う、違う、そんな浅い理由じゃない。私がどんな想いでやっているのかも知らないくせに…


16:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:15:09.58 ID:TJReGnPWO
「…そこまでだ」
「あァ!?」

 冨岡さんが止めに入ってくれる。いつもいつも不死川さんの神経を逆撫でする彼だけれど、今回ばかりは助かった。

以下略 AAS



17:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:15:46.55 ID:TJReGnPWO
「ありがとうございました」
「…お礼を言われるようなことはしていない」
「ですが…」
「それと…」
「はい?」
以下略 AAS



18:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:16:29.66 ID:TJReGnPWO
「お花見をしましょう」

 そんなことを続けて、新しい春がやってくる。私は姉さんと同じようにお花見をしようとアオイに声をかけた。


19:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:17:11.80 ID:TJReGnPWO
「ですが、しのぶ様…今年はまだ桜が咲いていません…」
「けれど、今年は柱の皆さんのお休みがこの日しか取れないの」
「ならば中止にした方が…」
「やります!絶対に!やるんです!」
「は、はい…」
以下略 AAS



20:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:17:51.91 ID:TJReGnPWO
 場所は去年と同じ産屋敷邸。だけど、御館様は体調が悪く参加できなかった。

「ごめんね、しのぶ…」
「御館様が謝られることでは…」

以下略 AAS



21:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:18:28.52 ID:TJReGnPWO
「…誰も来ない」

 当たり前だ。私は姉さんではない。いくら口癖を真似ても、いくら羽織を着ても、いくら笑顔を貼り付けても、私は姉さんのようにはなれないのだと、突きつけられているようだ。



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