18:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:16:29.66 ID:TJReGnPWO
「お花見をしましょう」
そんなことを続けて、新しい春がやってくる。私は姉さんと同じようにお花見をしようとアオイに声をかけた。
19:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:17:11.80 ID:TJReGnPWO
「ですが、しのぶ様…今年はまだ桜が咲いていません…」
「けれど、今年は柱の皆さんのお休みがこの日しか取れないの」
「ならば中止にした方が…」
「やります!絶対に!やるんです!」
「は、はい…」
20:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:17:51.91 ID:TJReGnPWO
場所は去年と同じ産屋敷邸。だけど、御館様は体調が悪く参加できなかった。
「ごめんね、しのぶ…」
「御館様が謝られることでは…」
21:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:18:28.52 ID:TJReGnPWO
「…誰も来ない」
当たり前だ。私は姉さんではない。いくら口癖を真似ても、いくら羽織を着ても、いくら笑顔を貼り付けても、私は姉さんのようにはなれないのだと、突きつけられているようだ。
22:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:19:13.27 ID:TJReGnPWO
「雨…」
最悪だ。雨まで降ってきた。桜もない。人は来ない。挙げ句の果てに雨まで降ってきてお花見などとは到底言えない。無理を言って付き合わせた御館様やアオイに申し訳がない。これだけ付き合わせて、結局はお花見一つ満足に開くことができなかった。続けることができなかった。
23:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:20:00.15 ID:TJReGnPWO
「本当に…情けない…花も咲いてないのに…」
「花ならある」
「え?」
振り向くと、そこには冨岡さんがいた。何故か木の枝を一本持って。
24:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:20:58.54 ID:TJReGnPWO
「すまない、遅れてしまった」
「え、えぇ…それは構いませんが…」
そもそも誰も来ていない、これからも来ないだろうから遅刻など関係ない。
25:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:21:30.02 ID:TJReGnPWO
「それよりどうしたんですか?そんなものを持って…」
「この辺りはまだ花が咲いていないから…花をもってきた…」
「冨岡さん…」
だからと言って、木の枝を折ってそのまま持ってくるだろうか。いや、そうだ。そういう不器用だけど優しい人だった。だけど…
26:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:22:04.42 ID:TJReGnPWO
「だから、それ…梅ですよ?」
冨岡さんが持っていたのは梅だった。前にも教えてあげたのに…でもまあ、こんなところも冨岡さんらしい。いや、違う。これは正しく私ではないか。桜には決してなれない梅なのだ。頑張って頑張って、どれだけ頑張って実を結んでも、できるのは甘い甘いさくらんぼではなく、酸っぱい酸っぱい梅の実だ。
27:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:23:55.16 ID:TJReGnPWO
「胡蝶…」
「いえ、いいんです。私は所詮、桜になれない梅ですから…」
「胡蝶、だから俺は…」
口下手な貴方は、こういう時言葉を選んでくれますよね。だけど事実は覆らないから。どう取り繕っても事実は変わらない。
28:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:24:34.78 ID:TJReGnPWO
「ほら、こんなことやめて早く中に入りましょう」
「いや、だから…」
まだ何か言いたそうにしている冨岡さんを押して、中に入れる。こんなところで冨岡さんが話せるまで待っていたら風邪をひいてしまう。そう思って中に入ると…
29:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:25:34.73 ID:TJReGnPWO
「おい、冨岡!いつまでかかってんだよ!」
「まずは雨で濡れているところを拭くといい…」
「本当にいつまで時間をかけるつもりだ?料理も冷めてしまうし、何より身体が冷えるだろう。風邪でも引いたらどうするつもりだ?貴様には柱としての自覚がないのか?そもそも…」
「しのぶちゃん!桜餅これくらいで足りるかな?」
「時透少年!これを飲むといい!」
30:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:26:46.99 ID:TJReGnPWO
どうして、どうしてみんながここにいるのだろう。桜も咲いていないのに、雨も降っているのに、そして…姉さんももういないのに、どうして集まっているのだろう。
31:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:27:25.14 ID:TJReGnPWO
「そんなもん、お前がやるって言ったからに決まってんだろォ」
「うむ!そうだ!他の誰でもない『胡蝶しのぶ』がやると言ったから!みんな集まったのだ!」
いいのだろうか。姉さんのように優しくないけれど、姉さんのような笑顔じゃないけれど、桜じゃなくて梅のような私だけれど、それでもいいのだろうか。
32:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:28:04.96 ID:TJReGnPWO
「胡蝶…」
あいも変わらず、冨岡さんは私に話しかけてくる。
「すいません、私をずっと中に入れようとしてくれていたんですね」
33:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:28:51.37 ID:TJReGnPWO
「前にも言ったが、俺は梅が好きだ」
「へ?」
それはどういう意味だろう。そんなことはないとわかっているけれど、冨岡さんに限って絶対にないとはわかっているけれど、そういう意味かと思ってしまう。
34:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:29:30.60 ID:TJReGnPWO
「と、冨岡さん、そんなこと言ってたら勘違いされますよ?」
「…だから、勘違いではない」
また絶妙に言葉が足りない。どっちの意味だろう。本当に、本当に彼は意味がわかっているのだろうか。桜よりも梅が好き、そんな人がいたとしたら…
35:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:30:14.62 ID:TJReGnPWO
「あら?しのぶちゃん、どうしたの?顔が真っ赤よ、桜みたい」
「え!?いえ、べ、別に…」
甘露寺さんに指摘される。そんなに顔に出ていたのか、感情を制御できないのは未熟者。早く心を沈めなければ。
36:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:31:09.83 ID:TJReGnPWO
「桜?いや、ここまで真っ赤だと…」
「うむ!まるで梅干しのようだ!」
「へェ、なんだそんな顔も出来んじゃねェか」
そっちの顔の方がずっといい。みんなが口々にそう言っているけれど、私には最後の冨岡さんの言葉しか聞こえなかった。
37:名無しNIPPER
2020/04/04(土) 14:31:41.33 ID:TJReGnPWO
「ほらな、梅は綺麗だ」
終わり
38:名無しNIPPER[sage]
2020/04/04(土) 18:31:57.46 ID:xaLizcvqO
激甘の呼吸
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