30:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:55:08.22 ID:O0jAO63X0
昔々のことです。小さな鬼がひとりで野山を歩いておりました。
この鬼は地獄で仲間ともめ事を起こしたため、住処を追われ、たったひとり地上をあてもなく彷徨っていたのです。
ひとりぼっちの鬼はお腹を空かせていました。獲物である人間を食べなければ、餓死してしまいます。
しかし歩けども歩けども、どこにも人間はいません。やがて鬼は歩く力も尽きて、その場に座り込んでしまいました。
ずっとずっと寂しい思いをしてきた鬼は心も体も疲れ果て、涙もとうに枯れていました。
すると――。
「やぁやぁ、娘っ子がこんなところでひとりぼっちでどうしたんだい?」
声をかけたのは、近くの村に住む男の子でした。
彼は名物のない寂れた村の人々に少しでも楽な暮らしをしてもらおうと、毎日わらじや笠を作っては一山越えた先の町へ売りに歩いていたのです。
お腹が空いて返事のできない様子を見かねた男の子は、手持ちの荷物から乾飯を取り出して、水でふやかせて鬼に差し出しました。
「ほら、これをお食べ。喉も渇いているだろう。水も全部飲んでくれ。おらは平気だ。この程度、家まで我慢すればいいさ」
男の子はそう言ってにっこり微笑みました。しかし鬼は男の子の顔を黙って見つめたまま、乾飯も水も口にしようとしません。
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