4: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/03/06(金) 20:56:43.73 ID:hr1ls1V9o
視界が開けた。そして気づく。
そこは車内なんかではなく、エレベーターの中だった。……エレベーター?
慌ててスマホを確認、ええと……あれ、先程気を失ってからかなりの時間が経っている。計算が正しければ、一本収録を終えて丁度いいくらいには。俺はそこに自分の両足で立って、帰り支度をして乗っていた。
記憶が無い。俺は今まで何をしていたのだろうか。全身から汗がぶわっと吹き出てくる。
「仕事……」
すっぽかしてしまったのか?しかしそれならそれで何か言われておかしくないが、誰からも何も言われない。電話を貰ったような様子も、相方からの叱責も特にないし、スタッフさんからの言葉も特にない。
閉まりかけた扉を開口してエレベーターから降りた。現場地下の駐車場だと言うことはすぐに分かる。冷静な判断が必要だ……そうか、俺は車に乗って帰宅しようとしていたのか?
……ついウケ狙いを熱中して、その場のことを覚えていないことなんて、そうそう無い。
理由が分からない妙さがやけに胸につっかえているが、かと言ってわざわざ戻ってスタッフさんやらの手を煩わせるのも申し訳ない。
一応事務所に連絡を、と思ったが「なんか記憶がすっ飛んだみたいで覚えてないんすけど、俺ちゃんと仕事してました?」なんて聞くのも馬鹿すぎる。
しかし、しかし、しかし……あれやこれや考えるが、ふと自分の車が目に入った。
きちんと整備しているおかげで、今日も黄色い車は綺麗だ。なぜだろう、その姿を見た途端に、先程まであれこれ心配していたのが馬鹿らしく思えた。
「……帰るか」
気になることはあったが、それでも気にしないことも大切だろうと思い直し、帰路に着いた。
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