白菊ほたる「傘を弔う」
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9: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:09:29.59 ID:3k7Y9koF0



茄子さんにはいろんな特技がある。

たとえば、買い物をする時に二桁以下の端数がゼロになるようにぴったり計算できる。
だから茄子さんの財布の中は比較的小銭が少ない。
でも代わりにクーポン券とかポイントカードがぱんぱんに詰め込まれているので財布の見た目はボンレスハムみたいに膨らんでいる。
正直、かっこわるいと思ってるけどわたしは言わない。

他にも、たとえばアイロンがけとか、手話とか、立ったまま眠れるとか、時々茄子さんは思い出したように、
「そういえば私こんなこともできるんですよ」
と言って自慢げに特技を披露する。
それは役に立つものもあれば、本当にただの一発芸に過ぎないものまで、いろいろ。

そういえば、いつだったか、「実は私、耳を動かせるんです」と言ってわたしにそのうさぎのようにぴくぴく動く耳を見せてくれたことがある。
けれどわたしはそれを見ても驚いたりはしなかった。
むしろ嬉しくなって、
「それ、わたしもできます!」
そう言って実際に披露してみせた直後、わたしは後悔しかけた。
茄子さんをがっかりさせてしまったのではないかと恐れて。

でも茄子さんは「わっ、すごい!」とまるで手品に騙された人のように素直に驚いて、
「おそろいだね」そう言ってとても喜んでくれた。
真っ赤になったわたしの耳に茄子さんの指が優しく触れてくすぐったかった。


一方、茄子さんには苦手なこともあった。

たとえば、辛いものが食べられない。
あと苦いのもダメで、コーヒーを飲む時なんか信じられないくらい大量の砂糖を入れたりする。
茄子さんはわたしの前ではあんまり好き嫌いを言わなかったけど、彼女が意外にも偏食家だということはわたしも薄々気が付いていた。
二人に外食に行くとよく「キクラゲあげる」とか「メンマ、いる?」とか「少しお腹一杯になっちゃったから、これ、食べていいですよ」と言って茄子の漬物をくれることがあったから。
「茄子って名前なのに、茄子が苦手なんですね」
「だってあの食感が……」
ただしどんなに嫌いでも出されたものを残したりはしなかったのが茄子さんの偉いところだ。
たとえ咀嚼しながら涙を零すはめになっても。


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