白菊ほたる「傘を弔う」
1- 20
8: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:07:06.28 ID:3k7Y9koF0



夏の、暑い日だった。
わたしたちはいつものように近所のお寺の境内へ涼みに来ていた。
部屋に冷房がないわたしたちにとってここは貴重な避暑地だったのだ。

「ほたるちゃんはどっちが勝つと思う?」
「え、これもう8回裏ですよ。さすがにこの得点差で逆転は無理なんじゃ……」
「いやいや、そんなのまだ分かりませんよ?」
言った直後、ラジオから後攻の追加得点が叫ばれた。
「ほら、無理ですって」
「がんばれがんばれ!」
結局、その高校は茄子さんの応援もむなしく一回戦敗退となってしまった。

「あーあ、残念」
「……甲子園、そんなに面白いですか?」
「うん、面白い」
「ルールよく知らないのに?」
「ルールを知らない方が楽しめることもあるんですよ」
そんなことあるのかな。
わたしが首をかしげてみせると茄子さんはすっくと立ちあがって奇妙なポーズをとった。

「それ、なんですか」
「ピッチャー、ふりかぶって……投げます!」
そうして透明なボールは明後日の方向に飛んでいき、けたたましい蝉の鳴き声の中に消えていった。
「いま右手と右足が同時に出てましたよ」
「それじゃダメ?」
「いや、ダメかどうかは分かんないですけど……たぶん、変だと思う」
「じゃあ次はほたるちゃんの番」

茄子さんに指名されたわたしはしぶしぶ立ち上がって、とりあえず投球フォームっぽい動きをしてみる。
「えっと……こう、かな?」
「ほたるちゃんって左利きなんだ」
「はい」
「じゃあアレですね、右脳が発達してるんだ。芸術肌なんですね」
「そうなんですか?」
「はい。昔テレビの人が言ってたんです、左利きの人は右脳が発達していて感覚派で、逆に右利きの人は左脳が発達していて理論派なんですって」
わたしは、ふぅん、と一瞬納得しかけて、
「……あんまり、信憑性ないですね。それ」
「えー、当たってると思うけどなあ」

茄子さんは再び透明なボールを握ると、頭の後ろまで腕をふりかぶった。
するとボールがリリースされるより先に右足のサンダルがすっぽ抜けて宙を舞った。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
21Res/30.34 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice