7: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:04:54.63 ID:3k7Y9koF0
☆
茄子さんの部屋は六畳間ワンルームとは思えないほどたくさんの物で埋め尽くされている。
まず、玄関の扉を開けると最初に目に入るのはあちこちに立て掛けられた傘の数々。
それらをなんとかかき分けて家に上がりこむと今度は目の前に分厚いキャビネットが立ち現われる。
時代錯誤な固定電話を上に乗せたそれはいわばこの部屋の貴重な給仕なのだった。
主な仕事は、食器、おやつ、未開封の郵便物、化粧品、その他さまざまな小道具をしまっておくこと。
あるいはお風呂上がりのタオルをひっかけておくための場所。
あるいは、過去へとつながる一方通行の四次元ポケット。
玄関から歩いて五歩、藍色ののれんを分けて入ればそこには見たこともない世界が広がっている。
それは一種のエンターテイメントであり、ファッションであり、思想だった。
けれどその様子を具体的に合理的に述べることは誰にもできない。
茄子さんでさえも。
ただ、もしもわたしに、ある日の夕方、茄子さんの部屋へ招かれた話をすることが許されるなら、それは確かこんな夢だった。
白いふわふわした羽が床一面に海のように波打っていた。
見ると羽毛布団の布切れがベッドの上に投げ捨てられていた。
天井に吊り下げられた飛行機、UFO、鳥と魚の模型たち。
――空を飛んでる!
茄子さんが笑いながらわたしの手を取る。
そうして二人ベッドの上に倒れこんだら羽が舞い上がってきらきら光った。
わたしたちは鳥になりたかったんだろうか。
この光に満ちた宇宙の中で?
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