白菊ほたる「傘を弔う」
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15: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:16:15.53 ID:3k7Y9koF0



あの小宇宙のような六畳間の空間は茄子さんそのものだった。

いや、より正確に言うなら、茄子さんという存在はあの空間に限定された現象だった。

もちろん、実在としての彼女自身は生きている限りどこにだって存在しうる。
わたしが言いたいのはそういうことじゃない。

秘匿性、多様性、循環性、機能性、そして永遠性……
茄子さんを構成するあらゆる性質が、あの安アパートの101号室によって決定されていた。
それは言い換えるならつまりこういうことだ。

茄子さんが生活を作り出しているんじゃない。
生活が、茄子さんを作り出していた。
機械仕掛けの舞台の上で、与えられた役割を演じ続ける人形のように。

この関係は、確かに一種のパラドックスには違いなかった。
人が生まれるよりも先にその人の生活が存在するなんてことがありえるだろうか?
意志さえも超えて?
……わたしには、考えても分からないことだけど。


どちらにせよ、茄子さんという現象はあの空間なしには成り立たないものだった。
そして、茄子さんにとって傘を差すというのはいわば自身の拡張であり、世界と融和するための試みだったのだ。
彼女は傘の下に間借りした彼女自身を持ち運び、その存在を少しずつ世界に馴染ませようとしていた。

けど、その方法は結局のところあまり上手くいかなかった。
茄子さんという宇宙を留めておくには、傘という容れ物は少し脆弱すぎたのだ。

そこでわたしが選ばれた。
茄子さんが世界と通じるための、もうひとつのチャンネルとして。

『わたしたちが出会ったのは、運命だったんです』

茄子さんは言う。
あるいは、そう信じることが彼女にとっての救いだったのだろうか?

……そんなつまらない運命なら、わたしはいらない。


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