14: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:15:24.05 ID:3k7Y9koF0
もちろん、『火星の王子さま』も茄子さんと一緒に観た。
記憶にあるよりもずっと子供向けだったけど、意外にもけっこう楽しめた。
ただ、あの物悲しい結末だけは、子供の頃に感じた痛みとほとんど変わらない印象をわたしの心に再び刻んだ。
「……そっかあ」
観終わった後、茄子さんはそう呟いたっきり黙ってしまった。
横目にちらりと伺うと、彼女は何か思いつめたようにエンディング後のメニュー画面をじっと見つめていた。
わたしは、自分が悪いことをしたわけでもないのになんだか申し訳ない気持ちになった。
「……初めて見た時、わたしまだ小さかったから最後の意味もよく分かってなかったんです。ただなんとなく面白いなあって思って、それで無邪気に何度も観てて……。
「そしたらある日、突然ラストシーンの意味に気づいたんです。ああ、これって悲しいお話だったんだ……って」
「……それ以来、スズランの花を見かけるたびにこの映画を思い出して、胸が苦しくなるんです」
「でも、救いはありましたよ」
茄子さんはわたしの方をまっすぐに見つめてそう言った。
「救い……」
くらげくんが不時着した星は火星でもなんでもなかった。
それは砕けた星のかけら、夢を見る巨大な石のかたまりだったのだ。
バラバラになった自身の片割れを求め、ひとりぼっちで宇宙をさまよう星のこども……
結局、くらげくんは星のこどもの夢を見ていただけだった。
自分とそっくりの姿をした友人も、星のこどもが彼のために作り上げた虚像にすぎなかったのだ。
「夢の世界で冒険した思い出は幻だったかもしれないけれど……でも二人は確かに出会って、友達になったんです。それって幸せなことだと思いませんか?」
「……そう……なのかな……」
冒険の果て、くらげくんはついに星の中心部へたどり着く。
そこには宇宙船を飛ばすために必要なエネルギーの塊が、生き物のように脈打っている。
気づけば彼の友人はもういない。
そして最後、くらげくんは星のこどもを目覚めさせ、崩れゆく夢の世界から脱出する。
ラストシーン、くらげくんは宇宙船の窓から真っ黒な巨大な石のかたまりを眺めている。
コックピットには幻の友人と一緒に摘んだスズランの花が、ガラスケースに収められて揺れている。
目覚めた星のこどもはもう二度と夢を見ることはない。
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