2: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:37:36.99 ID:CDwt0mRk0
Pサマはちらり、ぼくと、そしてテレビを一瞥すると、またすぐにモニターへと視線を戻した。
「なんかさー、ぼく、ディズニー映画ってそーゆートコが嫌いなんだよね。綺麗ごと言ってれば全部丸く収まる、みたいなさー」
3: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:38:14.39 ID:CDwt0mRk0
「うぎゃー!」
ぴんぽんぴんぽん通知がスマホの画面にポップアップしていく。1、2、3……その数は最初こそゆっくりだったけれど、次第に、加速度的にその速度を増して、40を超えた時点でぼくはスマホをソファに放り投げた。
4: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:39:16.33 ID:CDwt0mRk0
地下アイドルのライブが終わってほくほくしていたぼくの目の前に彼が現れたとき、正直、それこそどこかのアイドルがハコにやってきたのだと思った。薄汚れたコート、その内側から名刺入れを取り出して、一枚の紙切れをぼくに見せてくるまでは。
正気の沙汰じゃない、っていうのが最初の感想。だし、なんなら今でも思う。頭の螺子がぶっ飛んでいるひとはどんな世界のどこにでもいて、片隅でひっそり暮らしているとは限らない。
確かに、ぼくは顔のことで褒められることは多かった。不摂生が祟って腹回り、足回りは少しぶよぶよしているけれど、おっぱいだってかなりある。どたぷん、ってくらいには。
5: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:40:47.37 ID:CDwt0mRk0
口説き文句は、正直、あんまり覚えていない。ただただ唐突なできごとに混乱して、「は? このひと頭がおかしいんじゃないか」って思って、「顔がめっちゃカッコいい」とも思って。
……あぁ、そうだ。確かPサマはこう言ったのだ。アイドルになんかなれないって、尊くなんかなれないって断ろうとしたぼくに「だからこそ、いまだ嘗てないアイドルになれる」なんてことを。
そんなはずがない。ぼくのことはぼくが一番よくわかっているし、アイドルっていう存在だって、目の前の男よりもずっと詳しいんだから。
6: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:43:08.34 ID:CDwt0mRk0
「ねー、Pサマ、暇だよぉ、構ってよぉ」
ソファに不自然な体勢で体を預けているせいか、シャツの裾がだるんだるんになっている。それももう気にならない。
7: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:44:23.70 ID:CDwt0mRk0
まぁ、駆け出しのアイドルなんてそんなもんなんだろう、という達観も確かにあった。ぼくが稼いでるお金より、ぼくに使ってくれているお金のほうが全然多いはずだ。
そもそもこの事務所、母体は中堅どころのそこそこ有名な会社だけれど、その一部門としては極めて零細。ぼく以外のアイドルだって片手で数えられるくらいだから。
8: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:46:25.47 ID:CDwt0mRk0
ぼくのアイドル論とは全く無関係に、ぼくはそもそも面食いで、可愛いアイドルが好きだった。当然カッコいいアイドルも。そういう意味では、Pサマの存在は、なんていうか、こう……非常にモチベに繋がっている。そして毒でもある。心臓に負担が、が、が。
「千川ァ。俺の代わりに、こいつの教育すっか?」
9: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:48:21.68 ID:CDwt0mRk0
「た、食べる!」
「そうか。なら、俺も休憩にすっかな」
10: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:49:54.93 ID:CDwt0mRk0
* * *
「……」
11: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:52:18.84 ID:CDwt0mRk0
現在時刻は夜の八時半を回っていた。事務所に始発で来たから、かれこれ十四時間、アイドル活動をやっていたことになる。
今日は朝からテレビの収録があったのだ。
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