4:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:21:27.73 ID:QhrXPTvL0
ぞわり、と。
火照っていた身体に、少しばかりの寒気がさしこむ。
気付いたら、ではなくかなり意識的に、ベランダの手すりに指を掛ける。近付きたい気持ちなのだろうか。
そうしても、なおも、目を細める。それ以外のものを視界から完全にシャットアウトするように。
魅了されるというのは、こういうことを言うのだろうか。
規則正しい腕の振り、前へ前へと進んでいくしなやかな脚、揺れる後ろ髪。
ぐんぐんとスピードを増して駆け抜ける彼女は、ほかのものとは明らかに違っている。
どうしてだろう。一緒に走っている人と比べて、一番速いからなのだろうか。
いやいや、と頭を振る。それはそうだけど、そうではない。
ただ速いだけなら、こんなにも目を奪われない。
そのうち、決められた距離を走り終えた彼女はゆるゆると流すように脚を緩める。
我に返ったわたしは、自分の息が止まっていたのに気付いた。慌てて呼吸をすると、はあ、と重い吐息が空に溶けていく。
手すりにかける力を緩めようとして、でも、それが出来ないことをわたしは知っていた。
彼女がまた全速力で走り出す。さっきと同じスピードで──いや、さらに速く、誰にも追いつけないような速さで。
26Res/28.62 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20