【ミリオン】紗代子の欲しかったもの
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23:伊丹 [sage]
2020/02/08(土) 20:32:19.45 ID:2EYiqEug0



右耳のすぐ近くには彼の左手が壁に添えられていて。
手首に巻かれている彼の時計の音がハッキリ聞こえる。



身長差のある彼の顔を見上げていると、目が合ってしまう。
私に息がかからないように呼吸を抑えているのか、少し顔が赤くなっているのがわかる。


私は、違う理由で顔が熱くなっていく。


近すぎる彼との距離に、私の心臓は早鐘を打つ。
でも、不思議と彼と合った目を、逸らすことができない。


彼に見つめられながら、
耳に聞こえてくるのは電車の音や満員電車の喧騒じゃない。




ドッドッドッドッという私の心臓の音と、
チッチッチッチッという彼の腕時計の音。



今はその2つだけしか聞こえないし、
彼の目以外はなにも見えない。




たったふた駅までの距離が、永遠にも感じられる。
この時間が早く終わって欲しいのか、
もっと長く続いて欲しいのか、
私には、もうわからない。




ただこの時間に、身を委ねるしか、今はできない。






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