白雪千夜「私の魔法使い」
1- 20
99:26/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:27:34.03 ID:ldlfMP+C0
「そろそろ、行こっか。私をエスコートしてくれる?」

「……ああ。魔法使いなんかでよければ」

「魔法使い兼、馬車のお馬さん兼、王子様役、だね。これからも大変そう♪」

「これ以上は勘弁してくれよ? さあ行こう」

 ちとせに手を差し出すと、重ねるようにちとせも手を置いてくれた。身支度は済んでいるので、途中何度か名残惜しそうに振り返るちとせとそのまま外へと向かった。

 停めてある車まで足取りを合わせながら連れていく。千夜が待機している会場はそう遠くないので、時間にはまだまだ余裕があった。

 千夜がいれば助手席に乗るのは千夜なのだが、今回はいないため本人の希望もありちとせを乗せる。白い息で手を温めながら、普段と違うシチュエーションにちとせもはしゃいでいた。

「ふぅん、こういう風に見えてたんだ」

「景色か? そんなに変わらないと思うけど」

 エンジンを掛け、暖房を動かしてから車を発進させる。ちとせは外の風景ではなくプロデューサーを見ていた。

「あなたの横顔だよ。ここからじゃなきゃよく見れないもの。あの子にもこんな特等席があったんだ」

「……千夜ってそんなに、俺の顔見てた?」

「気付かなかった? って当たり前か、前を向いてなきゃいけないもんね」

「……俺の顔なんか見てて楽しいのかな」

 くすくすと笑うちとせ。千夜のことなので、緊張のあまり四苦八苦している運転手の有り様をこっそり楽しんでいたのかもしれない。

「でも、魔法使いさんも上手くなったなぁ。初めて乗った時はドキドキしちゃった」

「……散々送り迎えさせてくれたからな、得意じゃないのは変わらないけど」

 会話までとなるとワンテンポ遅れてしまうが、赤信号に遮られるまで実のある返事が出来なかった頃と比べれば、いくらか様になったといえる。

「ねぇ、あなたのお城に寄ってもいい? 大事な物を置いてきてるんだ」

「……今からか? そうだな……行き掛けだし、ちょっとくらいなら」

 慣れてきたとはいえ運転の最中であり、プロデューサーはとりあえずこの場はちとせに従うことにした。

 はたして、あまり顔も出せなくなっていたちとせが置きっぱなしにしていた荷物などあっただろうか、そんな事も深く考えずに。




「あは、なんか懐かしい。そんなに来てなかったっけ? 相変わらず寂しいなぁ」

 事務所の部屋に着くなり、代わり映えしないだろう部屋をちとせは隅々まで見て回っている。自分が使っていた、特等席へ改装したソファの上にあるクッションまで入念に確認していた。

「余計なことしてないで、ちとせの置き忘れはどこにあるんだ? 千夜も待ってるんだから」

「はーい。……その前に、魔法使いさん」

 穏やかな眼差しでちとせはプロデューサーと向かい合う。口元は絶えず微笑みを携えながら。

「言うこと聞いてくれる約束、今からお願いするね」

「こんな時に?」

「こんな時だから、かな。あなたに持っていてほしいものが3つあるの」

「3つも? そんなに俺に何を……」

「大丈夫、かさばらないから。いいから手を出して」

 そう言うと、ちとせはあろうことか千夜から贈られたムーンストーンのネックレスを外し、大切そうにプロデューサーへと差し出した。



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
111Res/266.62 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice