白雪千夜「私の魔法使い」
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86:22/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:12:35.99 ID:ldlfMP+C0
 普段から帽子と眼鏡を身に着け出したことをそんなに知られたくなかったのだろうか。

 気にはなるも、命は惜しい。プロデューサーはこのささやかなパーティーを穏便に終えて無事に帰れることだけを人知れず願った。

「あ、そうだ。千夜ちゃんシェフの年に1度の特別ディナーをいただく前に、ちょっと待ってて」

 言うなり自室へと消えていくちとせが、何かを手にしながらすぐに戻ってきた。その手にあるものは、プロデューサーもことさら最近よく目にしている。

 千夜もちとせの持っているものに気が付いたらしく、息を呑んだようだった。

「これ、千夜ちゃんに受け取ってほしいの。似合うと思って探したんだ」

 ちとせはアクセサリーをしまうためのケースを千夜の前に差し出し、自らケースを開けてみせる。中にはネックレスが入っていた。

「あは、びっくりした? サンストーンっていうんだって。私にとって、あなたはずっと……ねぇ、どうかな?」

 千夜が驚くのも無理はない。今日はちとせの誕生日であり、どうせならとその本人が大好きな少女を驚かせようと贈ったものは――

「……千夜ちゃん? どうかした?」

「い、いえ…………。お嬢さま、どうか……そのままでお待ちいただけますか?」

 千夜からの視線をプロデューサーは首肯で返し、千夜もまた自室へと引っ込んでいく。

 ちとせはこれから何が始まるのかわからないといった様子で、キョトンとしながら千夜が戻るのを待っている。今夜ばかりは紅い瞳も先を見通せないようだ。

 はたして、部屋から出てきた千夜の手にもまた、ちとせが持っているものと同じケースがあった。

 どういうことなのか、とちとせからプロデューサーへ向けられた視線には、後頭部の辺りを軽くかいて返すことにする。

 いろんな感情がない交ぜになった表情を浮かべながらも、確かな足取りで戻ってきた千夜はちとせがしたのと同じように、自分が用意していたケースを開けてみせる。中にはやはり、ネックレスが入っていた。

「ムーンストーン、というようです。月の輝きのように美しいと、感じたので……お嬢さまにお似合いかと思いました。お気に召せばよいのですが……」

 反応が思わしくなければどうしよう、そう心許なさげにしている千夜をちとせは、ゆっくりと全身で包み込んでいた。

「……千夜ちゃんが、選んでくれたの?」

 涙にかすれそうな声を聞いて、ようやく千夜も身体から力が抜けたようだった。

「私がそうすることで、喜んでいただけると……教えてくれた者がいるので」

 優しい声色で千夜は返事をする。

「そっか……。それなら、お礼を言わないとね」

 一旦千夜を解放し、ちとせがプロデューサーへと振り向く。

 潤んだ瞳を順に拭ってから、とびきりの笑顔でちとせは言った。

「素敵な魔法をありがとう、魔法使いさん」






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