8: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:34:22.10 ID:ldlfMP+C0
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ぱたり、と。
2人の初めてのレッスンは、基礎を一通りさらっとこなしてもらう程度の軽いものを用意していたつもりだった、のだが。
最後のダンスレッスンに入ってからのちとせは最初こそ楽しそうにしていたものの、自分がいつ倒れるか判っていたかのように、本当に「ぱたり」と言い残してそのまま起き上がらなくなった。
「わっ、ちとせ!? おい大丈夫か!」
いつの間にか千夜がちとせに寄り添い楽な姿勢にさせている。いつも優雅な微笑みを絶やさないちとせもこの時ばかりは表情をうっすらとゆがませている。
「……これぐらいしょっちゅうだから、慣れてるんだ……ごめんね、最後まで出来なくて」
「お嬢さま、すぐに医務室で横になりましょう。お前! 見てばかりいないでお連れしなさい、今ばかりはお嬢さまに触れることを許します」
「わかった! えっと、すぐそこだから、ちょっとごめんな」
上半身を抱き起こすまでが千夜の細腕では限界らしく、後を引き取ってちとせをそっと抱き上げると、もともと軽そうではあるがやはりそこまでの重さを感じなかった。
レッスン着が何とも独特でへそ出しでもあるため、多少の接触は不可抗力だと頭で言い訳しつつちとせを運び出す。
第一に医務室の場所を覚えようとしていた黒ジャージ姿の千夜は、さすがと言うべきかそのまま医務室まで先導しドアを開けて待機している。ちとせがこうなることを想定済みだったのだろう。
「すみません、急いで診て貰いたいのですが!」
ちとせをベッドに預け、事務所の常駐医に後を託す。
当人が倒れ慣れていたとしても、気が気でない思いばかりは千夜と共有できそうだ。ちとせよりも千夜のほうがよほど苦しそうな顔をしていた。
そんな顔をされては、千夜だけでもレッスンを再開しようなどと言えるはずもなく、千夜を置いて帰りを待っているトレーナーの元へ戻ろうとすると、
「待って。千夜ちゃんも……お願い」
「お嬢さま!?」
置いていくつもりがここから千夜を連れ出せというちとせに、千夜も困惑を隠さない。
「せっかく来たんだもん。この子の面倒も見てあげて、ね?」
「……千夜さえよければ。無理にとは言わない」
「私は……お嬢さまがそう望むのなら、この者と共に行きます」
決して本意でないことは誰が見ても明らかだった。それでも自分の意志よりちとせの意志を尊重した千夜は、名残惜しそうに仕えるべき主へ背を向ける。
それならと千夜を連れてレッスンルームに戻り、残りのカリキュラムをこなさせることにする。楽しみながらだったちとせとは対照的に、これまで事務的に黙々とレッスンをこなしてきた千夜はことさら機械と化していた。
身体の動き自体は初めてとは思えないほどの身のこなしを見せていたが、心ここにあらずでは本当に機械と同じである。
全ての工程を終えると、千夜はトレーナーへの礼は欠かさず、しかし足早にちとせのいる医務室へ向かっていった。
さぞやりづらかっただろうトレーナーへ労いの言葉もそこそこに、プロデューサーも後を追う。ちとせの体調も心配だが、むしろ千夜のほうこそ気掛かりだった。
「あ、魔法使いさんも来てくれたの? さっきは驚かせちゃったね」
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