白雪千夜「私の魔法使い」
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7:1/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:33:15.00 ID:ldlfMP+C0

「……千川さんを見ていれば分かります。これぐらいで狼狽えないでください、みっともないですよ」

「あのなあ……でも、そういやちとせにとっての千夜ってどうなの? 知り合い、じゃ片付けられないレベルなのは見てればわかるけど」

「千夜ちゃんは私の僕(しもべ)ちゃんだよ。言ってなかった?」

「僕? しもべ……召使いとか、それこそ小間使いなのか?」

「察しが悪いな。私はちとせお嬢さまに仕える者です。それ以上でも以下でもない」

「そうか……うん、2人は特別な関係だということで」

「話を切り上げようとしていますね? ちゃんと理解できているのか怪しいものですが」

「追々理解させてもらうよ。なんだか疲れてきた……」

「あは、これから私達のために働いてもらおうってところなのにもう疲れちゃうの? だらしないなぁ」

「みなさんすっかり仲良しですねぇ」

 淹れたてのお茶を運びながらちひろが戻ってきた。今度こそ会話は途切れ、それぞれにお茶を配っていくちひろが今は救世主以外の何者にも見えない。

 ちひろへ軽く礼を言うちとせに、ぺこりと頭を下げる千夜。この素直さをこちらへ向けてもらえるようになるまで、どれほどの時間が掛かるだろうかと漏れそうな溜息をお茶と一緒に飲み下す。

 それからはちひろを交えての必要書類の確認、またそれぞれ未成年であるため保護者の方々に連絡を取りたい旨を伝えるも、その辺は私に任せての一点張りなちとせに言葉通り任せざるを得なかった。

 そもそもちとせと千夜は日本で数年ほど二人暮らしを続けているらしい。

 いよいよもって特別な、というよりは特殊な関係性であることが窺い知れる。だからといってどうということはなく、むしろ売り出す上で強力なアピールポイントになるかも、ぐらいにプロデューサーは留めておいた。

 すべきことを済ませ、建物内の案内よりもこれからどうこの部屋を飾るかが目下の目標となったちとせと千夜は、今日のところはこのまま帰宅するようだ。

 「またね、魔法使いさん」と魅力たっぷりのウィンクを残して去っていくちとせと、「それでは」と短く告げ主人の後を追う千夜。4人でもまだ広すぎる部屋に静寂はすぐ訪れた。

 ふと、残された者同士、目が合った。

 ちひろとは長い付き合いだ。長く思っているのは恐らく自分だけだと承知しながら、それでも部屋に2人取り残された状態で気まずさを一切感じない程度には、信頼を寄せている。

「相変わらず、どうやったら見つけられるのか不思議なくらいの子たちでしたね。プロデューサーさん?」

「今回は特別ですよ。見つけたというか、引き寄せられたというか、そんな感じです」

「……また、担当を受け持てるようになったんですね。みんなもきっと応援してくれますよ」

「…………。すみません、いろいろ押し付けちゃって。みんな、どうしてますか?」

「それは、ご自身で確認してきたほうがよろしいのでは?」

 あくまで優しく、しかし甘えさせるでもないちひろに返す言葉も無く、代わりにプロデューサーはスーツの懐にしまっていた懐中時計のようなものを取り出した。仕掛けられた2つの針が動くことはなく、これでは時計と呼べる代物ではない。

 それでもこれを眺めている間だけは、遠ざかっていく過去を真っ直ぐ振り返られる。何か大切なものを思い起こそうとする度にしてしまう、癖のようなものだ。

「ちひろさん。あの2人共々、よろしくお願いします。今度こそ――頑張りますから」

「こちらこそ、よろしくお願いしますね。まだ以前のようにはお側にいられないでしょうけれど、私もプロデューサーさんの帰りを待っていましたから」




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