白雪千夜「私の魔法使い」
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66:17/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:41:03.79 ID:ldlfMP+C0
「大変、よいことと、存じます?」

「ふっ、この程度の演技でも騙せるものなのか。勉強になりました」

「あっこら、俺を使って演技力を試すなよ!」

「あはは♪ 千夜ちゃんの勝ちー!」

 千夜を引き寄せて撫でくり回すちとせ。怒るつもりは毛頭ないが、その気も失せていく2人のじゃれ合いっぷりに微笑ましくなる。

「お嬢さま、そろそろご勘弁を……」

「そう? じゃあ次は魔法使いさん、こっち来て」

 ちとせにしてはあっさりと千夜を解放し、代わりに自分の膝をぽんぽん叩く。

「たまにはこういうご褒美もいいでしょ?」

 慣れたつもりの誘惑に抗うため、ぐっと息を呑む。ちとせの蠱惑的かつ艶めかしい太ももで膝枕をされようものなら、たちまち彼女の虜となりそうだ。

「……千夜がいる時にしかぶら下げない餌に、食いつくと思う?」

「そんなに物欲しそうな目で見てるくせに。あは♪」

「ちとせまで俺をからかうのか……」

「……本気だよ。魔法使いさんになら、私……」

 さも恋焦がれているかのような上目遣いに視線すらも釘付けにされ、精神的な逃げ場が失われていくのを感じた。

 おふざけと頭で理解していながら、心を支配されていく感覚はさすがちとせの得意分野だ。油断すると言いなりになりかねない。

「千夜、頼む。俺が我慢できなくなる前に……!」

「見るに堪えませんね」

 冷え切った声と同時にプロデューサーの顔面へ何かが噴射された。目に染みるものでも瞬間冷却するものでもなければ、虫除けのような薬品が散布された感じもない。

「た、助かった……危ない危ない」

「むー、つまんないの」

 そう言ってむくれるちとせがどこまで本気なのかいよいよ迷宮入りしたので、ひとまず放っておくことにした。

「矜持を持っていれば、手を出すようなことはないと思うのですが。まったく嘆かわしい」

「面目ない……。ってそういえばどこも何ともないけど、俺に何使った?」

 千夜が持っているそれには、大きくO2と書いてある。

「酸素? 酸素スプレーとはまた、何で持ってるんだ? ハイキングでも行くのか?」

「これは……別に、ただの戯れです。それに酸素だって高濃度のものを吸入し続ければ中毒を引き起こしますよ」

「怖っ!? まだコールドスプレーのが幾分マシだよ!」

「……。冗談です」

 そうこぼす千夜が冗談にしては浮かない顔をしていたのは、どうしてなのか。千夜がそんな顔をする原因は一つしかない。
 プロデューサーは既にけろりとしているちとせのことが、別な意味で頭から離れなくなった。






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