65: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:39:57.78 ID:ldlfMP+C0
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先に吉報を持ち帰ってきていたちとせと2人で、千夜の帰りを事務所の部屋でソファに座り待ちわびること数十分。噂の人は何一つ表情を変えずに帰還した。
「……戻りました」
「おかえり千夜ちゃん、どうだった?」
ユニットを組むことが伝えられた直後の頃に何度か受けたオーディションでは、いくら落ちようが気にした素振りも無かった千夜である。
とせはちとせで軽い貧血を起こしてしまったりと、体調を理由に振られることもあったので特に引きずってはいなかったが。
「採用だそうです。拍子抜けですね」
「おお、やったな! ……それにしても、もうちょい嬉しそうにしてくれてもいいのに」
「合否が通達される前に結果がわかってしまった、とまでは言いませんが……その。以前よりも変わったことが多くて」
「千夜ちゃんもなの? 私もなんだか物足りなかったな」
「お嬢さまも、ですか? ……まずはおめでとうございます」
主人もまた凱旋してきたことを悟り、プロデューサーにも伝わるレベルでようやく千夜も嬉しそうにしていた。
「揃って受かって良かったよ。しかも一発目からだからな」
ひとまずちとせのそばに千夜を座らせ、オーディションの様子を細かく2人に聞いてみることにした。
「それで、前と比べてどうだった?」
「名乗る前からこちらを知っていたかのような、そんな扱いでした」
「一緒に受けた子たちも、私を見るなり引いちゃったみたい。どうしたんだろうね?」
新人ながらアニバーサリーイベントのメインを飾ったのだ、その反響たるやプロデューサーにも計り知れない。
事務所の看板を背負って立っていたも同義だが、あまり気負いさせないように取り計らったのは正解だった。もっともこの2人なら、舞台に臨む際の緊張や不安とは無縁かもしれないが。
「アイドルとして世間に認識され始めたってとこだな。これから忙しくなっていくよ」
「映画の撮影ってどんな感じなのかな? ふふっ、ワクワクしてきちゃった♪」
「役名からして端役の端役ですが、私には相応しい。学べることもあるでしょうし」
「おお……千夜が向上心を見せてくれるなんて、泣いていい?」
指摘されて気付いたのか、千夜ははっとしてから悔しそうに歯噛みしている。
「……お嬢さまとまたいつ並び立つ時が来てもいいよう、経験を積んでおきたいだけです」
「またまたあ、本当はちとせみたいに楽しんでるんじゃない?」
「……。いけませんか?」
「えっ、あ……」
唇を尖らせた千夜からの予期せぬ反論に言葉が詰まる。楽しめているならそれに越したことはない。ちとせから託された願いのこともある。
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