64: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:39:11.60 ID:ldlfMP+C0
16.5/27
「どんな話をしてるんだろうね、魔法使いさんたち」
美嘉さんとアナスタシアさんをあいつと引き合わせるため、会場内に残されたあいつの足取りを追ってようやく突き止められた。
2人ともあいつに会いたがっていたのは、態度を見ていて察するにあまりある。
なんとか美嘉さんの今のプロデューサーに挨拶していたらしいことを聞きつけ、会場内に残っていると信じてスーツ姿を探し始めた。
そう何度も呼びつけたくはなかったし、探していることを疑われるのも煩わしいので、見つけた時はほっとしたものだ。
……それにしても、プロデューサーという人種はいついかなる時もスーツのジャケットを脱いではならないのだろうか。事務所の方針? おかげで何度もぬか喜びさせられた。
「千夜ちゃんはいいの?」
いいの、とは。帰る前に一言ぐらい、あいつから今日の感想を貰わなくていいのか、という意味だろう。
「私たちはいずれ、嫌でも顔を突き合わせることになりますから。でも、あの人たちは……」
アナスタシアさんにはあいつのことを聞かせてくれた恩義もある。これぐらいしなければ、割に合わないはずだ。
そしてあいつも……これぐらいのことをしなければ、自分から会おうとはしないのだろう。面倒なやつだ。
「うん、いい子いい子♪ 頑張ったね、千夜ちゃん」
お嬢さまが頭を撫でてくれる。嬉しくあるものの、私の勝手でお嬢さまを付き合わせてしまい申し訳なくなる。
と、そこへあいつに渡された携帯電話がメールを受信した。送り主は1人しかいない。
「あいつからです。……疲れているだろうし、話なら明日にでも聞くから早く帰って休むように。また寝坊するぞ、だと……?」
「あははは♪ 今日もぐっすり眠れるといいねっ!」
「屈辱だ……。お嬢さま、同じ醜態は晒しませんのでご安心を」
「えー? たまには千夜ちゃんのこと起こしてあげたいのになぁ」
「だから寝坊しろというのも難しい注文ですが……。お嬢さまが、そうお望みとあれば」
「それなら今日は、夜のお散歩に出かけよっか。浜辺じゃなくていつものコースで」
浜辺というのはわからないが、お嬢さまがここまで1日を活動的に過ごそうとしていることに違和感を覚える。
「……お身体の方はよろしいのですか?」
「動けるうちに動いておかないと、なんだかもったいなくて。いいでしょ、千夜ちゃん?」
調子が良いのは見ていればわかる。しかし何事もいつかは終わりがくるのだ。
何となく、お嬢さまが生き急いでいるような――そんな、心を蝕んでくる雑念を振り払うために、気付いた時にはお嬢さまの手を取っていた。
「止めても行こうとするのでしょう? ついていきますよ、どこへなりとも」
「わお、大胆♪ でも……これなら並んで歩きやすいね」
いつかの帰り道を思い出しながら、少しの間お嬢さまと手を繋いで歩く。昔はもっとこうしていたような気もするが、よく思い出せない。
「……あのさ、千夜ちゃん」
もうじき空が闇に染まろうとしている。
雲一つない天気だったから、今宵の月はお嬢さまと私を煌々と照らしてくれることだろう。
「今日も楽しかった。明日も楽しくなると、いいね」
月よりも儚げに微笑むちとせお嬢さまに、私は――ありのままの私が、答える。
「……うん」
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