62:16/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:36:13.27 ID:ldlfMP+C0
アニバーサリーイベントのメインを飾る舞台を、プロデューサーは観客席から全容を眺めることにした。
なにせ9人がステージに上がるのだ。事務所の方針でユニットは多くとも5人で結成されるため、こんな機会はなかなかこない。自分が手掛けた企画でもないので、1人のファンとして楽しめる数少ないチャンスでもある。
周りは多くのファンで埋め尽くされ、推しているアイドルの話や今回初めて知って好きになったアイドルの話、どれもこれもが歓喜の色に満ちている。
どうしても知名度では劣ってしまう『Velvet Rose』の話題が聞こえてこないか、親バカの心境で耳を傾けながらその時を待っていると、いよいよ開幕の時間となった。
今日一番の歓声が湧き上がる。暑さも上塗りにするほどの人々の熱気が立ち込める中、9人のアイドルたちが出揃った。
センターの美嘉が音頭を取っており、彼女のMCで観客のボルテージも最高潮に達し、頃合いと見るや演奏が流れ出す。あまりの盛り上がりに演奏が聴こえなくはならないか心配になった。
ちとせと千夜は端ながら隣同士に配置されている。ちとせの体調も問題はなさそうだが、まさかあの後本当に美嘉の血を吸ったわけじゃないよな、と思えるほどには元気そうだ。この舞台を心から楽しんでいる、そんな輝きを放っている。
千夜はどうだろう。合宿中に千夜はこのステージに向けて自身の持つ色、個性について悩んでいた。あれから自分なりの答えを見出せたのか、舞台の上の彼女を目で追いかける。
「……あの様子なら大丈夫、だよな」
ちとせの隣で千夜もまた、舞台を楽しめていることが伝わってきた。表情はまだ硬いながらも、ありのままこのステージを織りなす一つの色、個性、輝きとして溶け込んでいる。
そして美嘉、アナスタシアも自分の管轄から離れたところで、輝きは失われていなかった。
その光を失わせてしまうことに恐怖を抱き、目を背けてきたプロデューサーに、こんなことを言う資格はないだろう。それでも目の前に広がる光景が滲んで見づらくなる前に、どうしても言葉にしておきたかった。
「……みんな、凄く眩しいよ」
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