49:13/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:23:01.11 ID:ldlfMP+C0
「でも、これだけ作れてどれも美味しいなんて、伊達にこの家のシェフは務まってないな」
率直な感想を述べるも、今の千夜には逆効果だった。なんだか頬が赤くなっているような、そうでもないような……。
「うるさい! 別に……お前みたいなのでも客は客、お嬢さまの顔に泥を塗るようなことがあってはなりませんから。それだけのことです」
改めて並べられた料理を眺めてみると、成人男性が好きそうな料理トップ10、なんてベタなアンケートがあれば半分くらいは埋まりそうだ。苦心した跡が顔をのぞかせている。
「魔法使いさんには料理作ってくれる人、いないの?」
「いたらこんなに感動してないと思う。誰かの手料理ってだけでご馳走なのに、その上文句の付けようがないときた」
「ふぅん……? どう、千夜ちゃんをお嫁に欲しくなっちゃった?」
「そりゃあもう、あっ」
「あん、私の千夜ちゃん取っちゃだめなんだから。今はまだ、ね♪」
ちとせに乗せられてうっかり肯定していた。胃を掴むとはこういう意味だったのか。
それよりも千夜の反応が無いのが怖い。ちとせの悪ノリもいつもよりエスカレートしており収集がつかなくなりそうだ。
恐る恐る、千夜のほうを向いてみると――
「…………」
いろいろ通り越して真っ白になりながら、手だけは食事するために動くというよくわからないものへと成り果てていた。
口に運ばれた料理が文字通り消えていく、そんな早さで次々と消化されていっている。空になった皿が瞬く間に増えていった。
「は、早い……! 待てよ、これは正月番組に使えそうだな」
「そっちなの!? ごめんね千夜ちゃん、もう言わないから魔法使いさんの分だけでも残してあげてっ!」
千夜の新たな可能性を垣間見たのと引き換えに、晩餐会はシェフ自らの手で幕引きを早めることと相成った。
「やってくれましたね……」
食後に何とか復活した千夜の淹れた絶品な紅茶を楽しみつつ、ぼちぼち帰ろうかというところで家主が席を外し、今度は千夜と2人きりになった。
しかしちとせも、わざわざそうさせるために「お風呂に入りたいんだけど、魔法使いさんも入ってく?」なんてからかってくるのでは、こっちの寿命がいくつあっても足りない。千夜の視線も厳しいままだ。
「ははは……絶好調だったな、ちとせ」
「調子が良いというのは本当のようです。無事先月を乗り切ることも出来ましたから」
「アイドルやってるおかげかな?」
「何を馬鹿な。……まあ、ご健勝であるなら何にしても良いことですが」
千夜がちとせを想っている時は、表情が柔らかくなる。最近になって気付いたというよりは、そういう顔をプロデューサーの前でも見せてくれるようになってきた、が正しい。
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