47:13/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:20:34.60 ID:ldlfMP+C0
事務所の自室ももっとこんな風になるはずだったんだろうな、と失礼にならないよう加減して辺りを見回す。改装が施されたのは結局ソファ周りと食器に留まっていた。
ほかの子の影を追っている間はここまで、私たちしか見えなくなったら私の館に替えてあげる♪ とはちとせの言だ。
自由気ままのようで好きなものを無理やり自分の色へ染め上げようとはしない、千夜を見ていてもちとせはそういう主義の持ち主だとわかる。
ちとせも近くに座り、奇しくも千夜と2度話し合った時の形となる。千夜は今頃、キッチンでなすべき仕事をしている最中だろう。
「静かに暮らしてきたんだ。言ってなかった?」
「そっか。でもどうして俺を招待してくれたんだ?」
「別に特別な意味はないよ。私がそうしたくなったからそうしただけ。今までも、これからもね」
「……出来れば今回限りってことにしたいんだけどな、プロデューサーとしては」
「あん、つれないなぁ。大丈夫だよ、楽しい夜を誰にも邪魔させないようにしてるから」
「してるから……って」
ちとせのお嬢様パワーはそこまで可能なのだろうか。
海外にいる親御さんが可愛い娘と娘の大事な女の子2人だけで日本に住まわせているのだ、もしかすると……もしかするかもしれない。
「それでも心配? じゃあ私たちがアイドルじゃなくなったら気軽に来てくれる?」
「理屈としては、そうなるのか。……辞めないよな?」
「あは♪ 安心して、もう知っちゃったもん。あなたが掛けてくれた魔法の心地よさや、ステージの上で味わえるあの感覚。簡単には手放せないよ」
ちとせの本心にほっと胸をなでおろす。出会った時に交わした、ちとせを退屈させない約束はまだ破られていない。
だが……、
「千夜は、どうだろう。まだやらされてるなんて思ってるのかな」
きっとそうでないとはプロデューサーも感じているが、千夜のことは千夜を一番よく知っているちとせに聞くのが確実だ。
キッチンには届かない声量で、ちとせの見解を待つ。
「雰囲気は変わってきたかな。まだ私にしか伝わらないような、ほんの少しの差だけど」
「……それで?」
「ふふ、だーめ。もっと自信持ってくれなきゃ、私たちのプロデューサーなんでしょう?」
「自信を持ちたいから聞いてるんだ」
「何でも教えてもらえるなんて思わないで。私がいない時に困るじゃない」
「……いなくなったら困るよ。俺も、千夜も」
言ってしまってから、時が一瞬止まった錯覚を覚える。つい、ちとせの言葉の意味を理解せず本音が口をついて出ていた。
それを察したちとせは微笑みは崩さないながらも、どこか寂しそうに言葉を紡いだ。
「ごめんね、そういうつもりじゃなかったんだけど。……だめだなぁ、最近。ちょっとだけ、悔しいんだ、私」
ちとせから悔しいなんて言葉が出てくるとは思わず、どう返したものか窮してしまう。
「魔法使いさんのせいなんだから。責任、取ってもらわなきゃ」
「不穏だなあ……。えっと、その」
「仕方ないなぁ。良い夢見せくれたら、サービスしてあげる約束もしてたしね」
紅い瞳は変わらずこちらの思惑を優しく見透かしてくれた。
「炎――千夜ちゃんには、生きがいが必要だと思ったの。ずっとずっと燃え続けるような、消えない炎。普通に灯したら消えちゃうから、魔法の炎じゃなきゃね」
「……」
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