白雪千夜「私の魔法使い」
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46: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:19:37.37 ID:ldlfMP+C0
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「……どうぞ」

 太陽が地平線に沈み切った頃、ちとせと千夜が住むマンションのエントランスにて、インターホンで部屋の番号を入力すると無機質で素っ気ない声が返ってきた。

 オートロックの入り口が開錠する音が聞こえ、中へ進むと一見してホテルのロビーと遜色のない空間が広がっており、迷子にならないよう気を付けながらエレベーターを探す。改めてちとせがお嬢さまと呼ばれている理由を実感した。

 同席せずに済むエレベーターを選んで2人の住む階層のボタンを押し、目的の階に到達する。扉が開くと、渋い顔をしながらいつもの学生服じゃない千夜が出迎えてくれていた。
 例のちとせから貰った服か、とつい仕事の感覚で全身を眺めてしまい、千夜に睨まれる。

「なんだその目は……早く降りろ」

「確かにあの衣装そっくりだ。それも可愛いな」

「お世辞は間に合ってます。ついてきなさい」

「……お世辞じゃないのに」

 ぷいと背を向けた千夜の後を追って歩くにつれ、自分が場違いな場所にいる気しかせず居心地が悪くなってきた。横目でちょくちょくプロデューサーを観察していた千夜はそれを悟ったのか、意趣返しとばかりに鼻を鳴らす。

「ふっ。借りてきた猫だな」

「に、にゃあ」

「ここはペット禁止です。今すぐお帰りを」

「すみませんでした……」

 そこで千夜の足が止まり、再三に渡り粗相のないよう注意されてから中へ通される。
 事務所の改装されつつあった部屋を思えば、ちとせが住んでいそうだな、というのが自然と浮かんだ感想である。家の主も、装いも新たに来客者を歓迎してくれた。

「いらっしゃい、魔法使いさん。今宵は楽しんでいってね」

「いや、あまり遅くならないうちにあだっ!?」

 背中を千夜に小突かれる。何事かと振り返るとプロデューサーにだけ聞こえるように、褒めろ、と囁いた。これも粗相のうちだろうか。

「えっと、似合ってるね。そのまま舞台にも出られそうだ。わざわざ俺を迎えるために?」

 元々お嬢さま然とした身なりをしていたが、今晩はさらに気品に溢れている。

「ありがとっ。身内以外で初めてのお客様だもん、丁重にもてなさないと」

「それは光栄だな。……初めて?」

 軽く一礼しそっとその場を後にする千夜を尻目に、招かれるままリビングの、藍色を残した夜景を一望できるソファに腰を落ち着かせる。事務所のソファとは弾力の心地よさが比ではなかった。



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